人と街を本で繋ぎ広島をうごめかせたい
人と街を本で繋ぎ広島をうごめかせたい
地域価値共創センター ディレクター/ブックキュレーター
今田順 さん
2022年8月25日
「分からないこと分かち合う」本を介して始まる交わり
本川町電停前、本と器を扱う小さなお店『READAN DEAT』は、今田順さんの大好きな場所だそうです。「本の周りに人々の交わりや集いがある。広島に欠かせない場所です」。
肩書きの一つ、ブックキュレーターの「キュレーター」とは「学芸員」を指す英語であり、その語源はラテン語のcura、ケアするという意味だそうです。「いろんなものをケアしながら、本のある場所、空間を作りたい」。そんな思いを込めて名乗っていると言います。
今田さんは、東京で生まれて3歳で広島に移り住みました。中学・高校とサッカーに没頭し、本とは無縁だったそうですが、東京の大学に進んでから少しずつ本と出合っていったと当時を振り返ります。「ゼミで、レヴィ=ストロースの『野生の思考』を輪読したんです。難しい本だけど、みんなで古い知を分かち合うのが楽しくて。古典を古典で終わらせないというか、分からなくてもいい。読んでどう感じたかを分かち合うことから始まるんだなと」。
本が媒介となって、人と人がつながる喜びを確信したのは、その後勤務した西国分寺の『クルミドコーヒー』での経験でした。今田さんは、喫茶だけでなく、出版業も書店業にも携わり、本を作り、本を届けてきたそうです。
そうした経験の中で、本屋もカフェも、ふらっと入ってふらっと過ごせる場所であり、そういう空間があることが、街の懐の広さにつながる、と考えるようになったそうです。
書店が次々消えゆく街。「つなげる」本の役回り求めて
その後、広島に戻ることになり、地域価値共創センターに就職。「カミハチキテル」のような官民連携のまちづくりに携わってきました。ブックキュレーターの仕事はあくまで個人のプロジェクトですが、まちづくりに関わることで、「人×街×本」の風景へのヒントを得ることもあると言います。
「まちづくりって資本主義の論理だからスピードが求められるけど、本はじわじわ効いてくる遅効性のメディア。街の目まぐるしさに対する役回りがある気がして」。
現在、大手書店が次々と街から消えていくことを憂いているという今田さん。人と人が本でつながり、街がじわりうごめく。そんな広島になればと活動をしています。
※撮影協力:ハチドリ舎(中区土橋町)、READANDEAT(中区本川町)
今田順(いまだじゅん) さん
地域価値共創センター ディレクター/ブックキュレーター
広島で育つ。大学入学を機に生まれた東京へ。卒業後、カフェ・クルミドコーヒーに勤務。地域通貨の立ち上げ、地域の人と作る出版、書店業など地域とお店の接点づくりに従事。2020年に広島へUターンし、カミハチキテルなど広島都心部の官民連携のまちづくり支援業務に携わる傍ら、「まち×本」の新たなうごめきを模索している。広島の好きなところは、川が流れるそばで路面電車がガタンガタン言っている音や風景。「音を聞きながら夕暮れどき、数分ぼーっとすると、自分に立ち返ることができる気がします」。