僕も店も東城の人たちに育ててもらった感じがするんです
僕も店も東城の人たちに育ててもらった感じがするんです
株式会社総商さとう代表取締役社長
佐藤友則 さん
2023年3月24日
店を開いて以降、人口がほぼ半減。だけど売上は変わらない
「店がオープンした1988年には1万2千人いた町の人口が今は7千人を切ってます。ぞっとしますよ。でも店の売上は変わらないんです」。
広島の山間部、庄原市の東端にある東城町。周囲と同じくこの町も過疎化の波にさらされている中で、町の中心に日本全国の書店員がこぞって視察に訪れるお店があります。お店の名は『WE東城店』。一見普通の本屋ですが、店の敷地にはコインランドリー、美容院、ベーカリー…。扉を開けるとエステに印刷代行、地元土産…。多角経営と呼ぶにはあまりにカオスな「よろずや」ぶりに驚かされます。
社長の佐藤友則さんは東城町の隣町である神石高原町出身。父が始めた書店である『WE東城店』を継ぐため25歳で地元に帰って来ました。
「その時は大変で。売上も散々だし経営もひどいから従業員も辞めていって。すごく厳しい船出だったんです。だけど僕にできることは御用聞きしかないから、とにかくお客さんの声を聞いて応えることを繰り返して。それを20年やってたら異次元なところまで来てたんです(笑)」。
本はすべてのモノや興味に対応できる小売業ですからね
『WE東城店』には町じゅうの困り人がやって来ます。携帯電話の使い方がわからないおじいちゃん。不登校になった子どもたち。佐藤さんはそうした話に真摯に耳を傾けています。「エステがほしい」と言われたらエステを始め、「カフェがほしい」と言われたからコーヒーの提供も開始しました。店に来る子どもの絵本が素晴らしいからと、手作り絵本を制作&販売したりもします。
「基本は全部お客さんの声。だから僕も店も東城の人に育ててもらった感じがするんです。で、その中心にあるのが本。本はすべてのモノや興味に対応できる小売業ですからね」。
ずっと本が好きで、人が集まる本屋が好きだったという佐藤さん。好きな言葉は「一隅を照らす」。佐藤さんにとっての一隅は、もちろんこの東城町です。
「より良くなる土壌を持った町でいてほしいです。土壌が良ければ次の世代に引き継いでいける。僕らがいなくなっても続いていく、住むと良くなる土壌づくりに励みます」。
縮みゆく地元コミュニティを守ること。町を囲む山々のように、店では常に笑顔の佐藤さんが待っています。
佐藤友則(さとうとものり) さん
株式会社総商さとう代表取締役社長
1976年広島県神石郡出身。明治時代から続く地元書店「総商さとう」の息子として生まれる。大学中退後、名古屋市の書店『いまじん』を経て「WE東城店」へ。本の他に雑貨や食品が並び、美容室を併設するなど、よろずや的なスタイルが、地域での新しい書店の在り方として全国的にも注目を集める。令和4年に島田潤一郎氏と共同で『本屋で待つ』(夏葉社)を刊行。現在は県北の歴史を残したいと、比婆の郷土料理研究家である小林富子さんの本を制作中。