地域安全マップは,犯罪が起こりやすい場所を表示した地図であって,実際に犯罪が発生した場所を表示した地図(犯罪発生マップ)ではなく,また,不審者が出没した場所を表示した地図(不審者マップ)でもありません。
また,大人が地域安全マップを作製して,それを子どもに渡すだけでは,子どもの被害防止能力はそれほど高まりません。
子どもや地域住民は,地域安全マップづくりを経験することで,危険な場所を避けたり,注意力を向上させたりする必要性を強く感じるようになるのです。子どもや住民自身が試行錯誤しながら相互に協力して作り上げる過程こそが,様々な効果を生むのです。
「変な人がいた」「犯罪者みたいな人がウロウロしていた」などと,不審者が出没した場所を表示した不審者マップは,被害防止能力の向上に効果的でないばかりか,有害でさえあります。不審者か否かの判断が主観的であるため,特定の人や集団を不審者扱いにした差別的な地図になる危険性があるからです。
子どもに,単純に「不審者に注意しましょう」と指導することは,「進んであいさつをしましょう」とか「困っている人を助けましょう」などと指導していることと矛盾し,子どもを混乱させてしまいます。
子どもに,「犯罪が起こりやすい場所では十分警戒し,犯罪が起こりにくい場所においては積極的にあいさつをしましょう」と指導すれば混乱は回避できます。
犯罪発生場所を単純にそのまま地図に書き込むだけでは,危険な場所を見極める能力は育ちません。さらに,犯罪発生場所に執着すると,被害体験を聞き出すことに躍起となり,被害者のトラウマ(心の傷)を深める危険性もあるので,特に被害に遭った子どもの心のケアには十分な配慮が必要です。
犯罪が起きた場所が明らかにされている場合でも,それは,あくまでも,犯罪が起こりやすい場所を洗い出すための基礎資料と考えるべきです。
日ごろ不安に感じている場所では,注意しているはずなので,その場所を単純に地図に落とすだけでは,被害防止のための意識と能力の向上は期待できません。
犯罪が起こりやすい場所の判断基準(「入りやすい」(領域性が低い)場所と「見えにくい」(監視性が低い)場所という基準)に照らして,場所の危険性を判断し,地域に潜む危険性を発見するという「気づき」の過程こそが,被害防止にとって最も重要なのです。
参考資料:地域安全マップ作製指導マニュアル
東京都緊急治安対策本部(安全・安心まちづくり担当)発行
立正大学文学部社会学科(犯罪社会学)教授:小宮信夫 監修
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