株式会社NTTドコモ執行役員 中国支社長(株式会社ドコモCS中国 代表取締役社長)の白川貴久子さんは、1988年に日本電信電話株式会社(以下、NTT)に入社しました。マーケティングのプロフェッショナルとして、育児と仕事を両立しながら社員を牽引し、経営層としてビジネスの第一線で活躍されていらっしゃいます。
また、女性管理職としてだけでなく、女性経営層のロールモデルでもある白川さん。支社長の立場でありながら積極的にコミュニケーションをとり、社員からは「きくさん」の愛称で呼ばれるなど、明るく活力ある職場づくりにも精力的に取り組んでおられます。
管理職として、また経営層としてさまざまなご経験により培われた強さと、ご自身が持つ優しさを感じたインタビューでした。
(令和4年1月取材)
1.「どうせやるならより面白く、より良く」。臆さずに飛び込む力でチャンスを引き寄せる
大学では化学を専攻しており、その領域に進む道もありました。しかし、化学反応よりも人に興味があるという自分に気が付き、就職先を考えていたところ、縁あってNTTに入社しました。当時は民営化後4年目で、社内は「新しい領域にチャレンジする」という雰囲気にあふれていました。
若手のころは、与えられたさまざまな仕事に真正面から向き合い、「もっと良い仕事をするには、どうすればいいか」を常に考え、とにかく時間を忘れるほど仕事に没頭していました。例えば、20代のころに配属された人材開発部門では、創造性の開発やリーダーシップをゼロから独学で学びました。それを書籍の形にしていただきましたが、今は廃版になっているので探さないでくださいね(笑)。
仕事に没頭できたのは、子育てを全面的に支援してくれた実母のおかげです。私は、子供のころから「これからは女も仕事をして自分で生きていかなあかん」と言い聞かせられて育ちました。大変厳しい母でしたが、「私がこの子を見るから、あんたは仕事しなさい」と背中を押してくれました。
そのような経験もあり、若い人には「甘えられるところには甘えて、いつか後の人に贈ればいい」とお伝えしたいです。
その後、1997年にエヌ・ティ・ティ関西移動通信網株式会社に転籍となり、当時の上司に「マーケティングをやりたい」と相談したことが、自身の専門領域を開拓するきっかけになりました。
そのころ、社内には顧客データ分析システムが整備されはじめており、それをマーケティングに活用したいと考えました。20年前のAIですから精度は今とは比べ物にはなりませんが、AIを使って解約しそうな人を見つけ出す「解約予兆モデル」を開発し、施策に生かしました。人間に興味があって、算数は得意な方なので、データを活用したマーケティングは私に合っていたのでしょうね。
夢中になってやっているうちに、日本マーケティング協会で講師をする機会をいただきました。人に教えることでさらに勉強になり、マーケティングの知識を磨くこともできましたね。
私のこれまでのキャリアを振り返ると、社内だけでなく、社外のいろいろな人との出会いがありました。刺激やご縁、チャンスをいただき、恩人と呼べる方は一人には絞りきれません。
2009年には、情報システム部担当部長に着任しました。実はIT関連分野は苦手な部類で、テレビを叩いて直そうとするタイプ。分析システムのユーザではあってもシステム開発には縁がないと感じていたので、任命された当初は「私が情報システム部の部長?」と、戸惑いました。
しかし、当時の上司に「精度の高い膨大なデータを上手に利活用してほしい」と言われ、マーケティングの知識や経験を生かして仕事ができるかもしれないと考え直し、チャレンジしてみました。
お客様に喜んでいただけるような価値を提供するために尽力するマーケターと、IT領域のプロフェッショナルであるシステムエンジニア(SE)が、それぞれの強みを生かしてしてデータをビジネスに活かしていく活動は、簡単ではないですがとても面白く、まさに「自分の強みを生かす工夫をする」ことの重要性を感じました。
2.誰もが自分の人生をマネジメントしている。仕事も生活も「Happyにするのは自分」と覚悟を決める
この10年ほどでAIは飛躍的に進化し、人間の仕事がAIに奪われるという話も耳にします。AIは過去の膨大なデータを学習し、迅速に最適解を選び出す力に優れていますが、過去に経験したことのないハプニングへの対応は苦手です。
これからは、AIに任せた方が楽なことはどんどん任せて、人間だからこそ「思いがけないうれしいハプニング」の創造に情熱を持って取り組みたいと思います。自分の仕事や生活を、より良く、よりHappyにするのは自分自身です。その覚悟をもって、仕事に取り組み続けることが大事だと思っています。
それは組織運営も同じだと思っています。
私たちはプロフェッショナルとして、結果を出すことを求められています。当社には1、400名近い従業員がいて、一人ひとりの考え方や強みを合わせて生かせば、素晴らしいパワーが生まれます。
失敗を恐れずチャレンジし、抱えきれないときや、困ったときは「助けて」と声をあげることができる。企業の目標達成のために互いに助けあうことができる。そんな組織にしたいと思っています。従業員が互いの強みを生かして躍できるように、私自身も全力で取り組んでいます。
管理職というと身構えてしまう女性もいるかもしれませんが、生きる中で、いろいろなことを並行してこなすことは、日々の自分自身をマネジメントしていると考えれば、誰もが自分自身のマネジャーですよね。私は管理職という役職を、特別難しく考える必要はないと思っています。
私自身、昇進したいと思ったことはありませんでしたが、「良い仕事をしたい」という思いは常に持っていました。経験を積む中で、「良い仕事をするためには、一定の決定権を持つことが必要だ」と感じることも多くなり、責任を持って自ら判断できる立場で仕事ができるようになったことは良かったと思います。トップは楽しいですよ。素晴らしい社員みんなのチカラを借りて、一人ではできないことにチャレンジできますから。
3.強みを伸ばして個を生かす。ダイバーシティの力で、組織を強く
当社もダイバーシティ&インクルージョンの実現に向け、継続的に取り組んでいます。特にマーケティングの視点でいえば、多様な人材がいた方が良いに決まっているのです。そして、多様な人材がその人らしく活躍できる土壌をつくるために組織ができることは、成長の機会を与えることだと考えています。
例えば、小さいお子さんがいる女性従業員に海外出張に行ってもらいたいとします。
「まだ子供が小さいのに、本当に大丈夫だろうか」と上司は心配するかもしれませんが、それは本人が判断することであって、彼女にとって、その経験がキャリアを積む上で必要なのであれば、機会を与えるのが組織の役割なのです。
男性の育児休業についても同じです。当社では、2022年の男性育休取得率100%を目標に掲げていますが、育児は本当に多くの学びがあります。性別にかかわらず、仕事と家庭の両立は、マネジメントスキルを上げる絶好の機会です。「是非、男女関係なく育児にチャレンジして!」と応援したいですね。
私自身、2020年に縁あって広島に赴任しましたが、広島は、自然が豊かで本当に美しい街だと感じています。人も優しくてあたたかい。災禍があったにもかかわらず、こんな素晴らしい街に復興を遂げることができたのは、まさに「人の力」だと実感しています。
広島県は国際平和拠点として、世界平和を呼びかけていますが、これはとても大切なことだと思います。平和を実現するには、それぞれの違いを受け入れ、個を尊重するダイバーシティの力が必要です。国際平和拠点である広島は、「ダイバーシティ拠点」でもあると胸を張れるよう、当社も従業員のみんなでチャレンジしたいと考えています。
協調しながらグループやチームで物事を進めることが多い女性は、人を紹介したり、お互いの良さを生かし合ったりと、人と人とをつなぐ能力に長けている人が多いのではないかと思います。一人ではできなくても、いろいろな人の力を借りることを楽しみながら、互いの強みを生かし、自ら覚悟を持って一歩ずつ前に進めたら良いですね。