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最近,在京テレビ局の女子アナの退職がブーム?である。欧米でも男女問わず30歳前後の転職は多く,2回程度転職するといわれているが,わが国では転職回数に明確な男女差がある。男性は30代から50代まで転職経験のない層が半数程度を占めるが,女性は転職経験のない割合は2割程度と低い(平成24年版就業構造基本調査)。この背景には長期継続雇用を前提とした日本の伝統的雇用システムがある。
言わずもがな,日本企業等の雇用システムは,終身雇用の下,企業等の責任において従業員のキャリアを開発することが効率的かつ効果的と考えられてきた。また,特定組織内で段階的かつ直線的にキャリアを発展させることがキャリアモデルとなっている点も日本の特徴だといえる。こうした組織主導における特定組織内のキャリア開発は,不確実性の低い社会経済においては,先達の経験,知識の変化幅が小さいことから有益だった。しかし,不確実性の増す社会環境の下では,従来の段階的なキャリア形成で得られる知識・経験だけでは対応が難しく,外部から経験や知見を積極的に吸収していく必要がある。また,女性など職業キャリアが中断する可能性がある労働者や今後さらに増えるであろう多様な価値観や働き方を持つ労働者を確保し活躍してもらうためにも,従来の直線的キャリア形成のみではその目的を達成できない可能性がある。
こうした時代の到来に対応したキャリア開発の考え方に「キャリア自律」というものがある。「キャリア自律」とは,働く個人が自身のキャリアを主体的に考え自己決定することを重視する考え方であり,企業等組織はそれを前提にした人事・育成の仕組みを構築することが求められる。この「キャリア自律」には「プロティアン・キャリア」と「バウンダリーレス・キャリア」という2つの軸がある。前者は,「自分は何を重視するか」「何を成功と考えるか」を基にキャリアを選択・開発するという概念である。このキャリアに求められるのは,自己のキャリアに責任を持つという個人の強い意思であり,また多様なネットワークを構築してそこから学習する能動的な姿勢である。一方,後者の「バウンダリーレス」とは「境界線がない」という意味で,職務,組織,国家,産業という境界を越えて展開するキャリアを意味する。この2つの組み合わせがキャリアのタイプとなるのであるが,こうした考え方は伝統的な日本的キャリア開発に懸念がもたれる一方,時代に適応すべく従業員の自律的キャリア意識を高めようとする企業等は増えている。
とはいえ,個人としてどのように「キャリア自律」をしていけばよいか戸惑う人も多いだろう。法政大学名誉教授の諏訪康雄氏は,個人でキャリアを管理していく必要性を示唆したうえで個人の変化対応力の重要性を説くとともに,この力の醸成には職業生活における継続的な能力開発が不可欠だとしている。また,自己の職業生活を守るためには断片的にしがちなキャリアを自分なりに統合し,「エンプロイヤビリティ(employability)」を高めることが重要とも指摘する。「エンプロイヤビリティ」とは,企業横断的に評価される能力を指すが,これは同時に内部労働市場でも評価される能力でもある。そしてこの能力の向上には,難しい仕事への挑戦や新しいネットワークの構築が必要になる。
「キャリア」の開発には従来の仕事より少し難易度の高い仕事経験が必要である。管理職になるのも一つのキャリアであり,これにも少し高度な仕事を経験することが求められる。管理職になるにも,社会で評価される能力を習得するにも「エンプロイヤビリティ」を高める必要があるのは確かである。これからの社会変化を視野に入れながら自身の周囲にある少し難易度の高い仕事にチャレンジしていくことから始めてみてはどうだろうか。