日本脳炎
広島県での発生状況
広島県における日本脳炎患者の発生状況は1960年代まで毎年数十から100名前後の患者が発生していましたが、1970年代以降は格段に減少し、1990年の発生を最後に1991年から発生がありませんでした。しかし、2002年に12年ぶりに、3名の日本脳炎患者が発生し(全国では8名)、不幸にも1名が亡くなられました。その後は2003年に1名が確認されて以降、2017年まで患者の発生はありませんでしたが、2017年以降は1名から2名の患者が確認される年がありました。
病原体
日本脳炎は蚊(主にコガタアカイエカ)によって媒介される日本脳炎ウイルスの感染によって起こります(蚊を介さずに感染することはありません)。
日本脳炎ウイルスは本来ブタのウイルスと言われており、体内でウイルスが増殖したブタの血液を吸った蚊が、その後にヒトを吸血することによって媒介されます(ブタ→蚊→ヒト)。日本脳炎患者の血液中には、ブタのように大量のウイルスは含まれないので、日本脳炎患者を吸血してもその蚊はウイルスの媒介能力を持つことはなく、その後に他のヒトを吸血してもウイルスに感染することはありません(「ヒト→蚊→ヒト」あるいは「ヒト→ヒト」感染は起こらない感染症です)。
日本脳炎ウイルスに感染したヒトが脳炎を発症するのは、数百人から千人くらいに一人と言われています。脳炎を発症するリスクが高いのは幼児、高齢者、他の疾患により免疫力の低下した人などです。
2002年以降の広島県の患者の多くは60歳以上でした。
流行時期
日本脳炎ウイルスは蚊によって媒介されるため、蚊の活動が活発な夏から初秋が流行時期となります。
国内の患者の多くは7月から10月に発症しています。ただし、10月以降に発症している年もあります。
保健環境センターでは、毎年、日本脳炎の流行を予測するため6~9月にと畜場に出荷される6ヵ月齢のブタ(蚊のいない冬以降に生まれた若いブタなので、新規感染が確認できる)の、日本脳炎ウイルスに対する抗体保有状況を検査する日本脳炎流行予測調査を行っています。
この結果、毎年、抗体の保有が確認されており、県内ではこの時期に日本脳炎ウイルスが活動していることがわかっています。
日本脳炎流行予測調査の速報はこちら(国立感染症研究所 NIID:感染症流行予測調査)
感染予防
- 蚊に刺されないこと
- ワクチンを接種して日本脳炎に対する免疫をつけておくこと
その他
名前は日本脳炎ですが、日本固有の病気ではなく、東南アジア・南アジアで多くの患者が発生しています。また近年、オーストラリアにも日本脳炎ウイルスが侵入していることが報告されています。
日本脳炎ウイルスの増幅動物として従来から言われているのはブタですが、最近ではイノシシや鳥の関与も示唆されています。養豚場の付近以外にも感染リスクが存在することを認識し、ワクチンを接種する等の予防対策をしましょう。
リンク
- 日本脳炎(国立感染症研究所 NIID:感染症の話)
- 日本脳炎特集 2003~2008(国立感染症研究所感染症情報センターIASR vol.30 No.6 June 2009)
- 2002年に発生した日本脳炎3事例についての詳報-広島県(国立感染症研究所感染症情報センターIASR vol.24 No.7 July 2003)
- 日本脳炎特集 2007~2016(niid.go.jp)(IASR Vol. 38 p.151-152: 2017年8月号)
- 日本脳炎に関する最新の状況(niid.go.jp)(IASR Vol. 43 p135-137: 2022年6月号)