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1-1.黒瀬川水系流域の現状

印刷用ページを表示する掲載日2024年7月29日

(1).河川及び流域の概要

黒瀬川(くろせ)は,広島県沿岸部のほぼ中央に位置する流域面積238.8平方キロメートル,流路延長50.6キロメートルの二級河川である。その流れは,流域北端の虚空蔵山(こくぞうざん)(標高666メートル)に始まり,途中,吾妻子(あづまこ)の滝を挟んで西条(さいじょう)盆地,黒瀬(くろせ)盆地を南流し,さらに二級峡(にきゅうきょう)を経て,広(ひろ)沖積平野から瀬戸内海に注いでいる。

 河川形態は,西条盆地内を大きく湾曲しながら流れる上流部は,概ね河床勾配300分の1~800分の1,川幅10~50メートルで,水系内の主要支川古河(ふるこう)川,松板(まついた)川等と合流しながら,次第に大きな流れとなっていく。黒瀬盆地内で小さな蛇行を繰り返す中流部は,概ね河床勾配700分の1~800分の1,川幅50~70メートルで,緩やかで左右に澪筋を移動しながら流れている。しかし,下流部二級峡で約70分の1の急勾配河川へと様相が一変した後,河口部では勾配1,000分の1~1,500分の1,川幅100~150メートルのゆったりとした流れに戻り海に至る。

 流域は,上・中流部が,県内内陸部の主要都市である東広島市及び賀茂郡黒瀬町の大部分を占め,下流部が,県内第3位の人口を有する呉市東部地域となっている。

 河川周辺の様相は,中・上流部では,河川沿いの幹線道路を中心に急速に発展する新しい町並みが続き,そのまわりを広々とした水田が取り囲んでいる。下流部では,左右に山が迫る渓谷状の風景から河口付近低平地部の商工業地帯へと明確な変化が見られる。流域の位置する賀茂(かも)台地では,農業用水の不足から多くのため池が造られ,流域内においても千数百のため池利用によって灌漑が行われている。

(2).河川及び流域の自然環境

黒瀬川の上・中流部は,標高400~700メートルの中・小起伏山地に囲まれ,その間に平均標高210メートルの西条盆地と170メートルの黒瀬盆地が広がる。気候は,瀬戸内気候区に属し,年平均気温13~14度,降水量は,年間で1,200~1,700ミリメートル程度となっている。なお,月別では,梅雨期・台風期を中心とした4月~10月に降雨が集中する傾向にある。地質は,主に中生代白亜紀の広島花崗岩類,高田流紋岩類からなるが,西条盆地,黒瀬盆地には,新生代第四紀の西条湖成層が分布している。林相は,広島県内の中・小起伏山地に一般的に見られるアカマツ~アラカシ群集,アカマツ~ウラジロガシ群集などの二次林が主体である。

 下流部は,上・中流部に比べて気温は2~3度高いが,降雨特性にはあまり差がない。山地部の地質及び植生も上・中流部とほぼ同様であるが,河口付近に沖積堆積層が広がること,二級峡付近に自然植生が確認できることなど,部分的にはやや異なる状況も見られる。

 上流部の河川の状況は,ブロック積の護岸が整備され,川幅が狭くわずかな河床部を除き,全体にやや画一的な印象となっており,生息する魚類も県内に一般的に見られるオイカワ,カワムツ,ヨシノボリ類が主であるが,河川周辺の三永水源地や支川上流部の大規模なため池には,ヒシクイ,トモエガモなどの多くの水鳥が飛来する。なお,近年は,ため池に放流された外来種のオオクチバス(ブラックバス),ブルーギルが河川内でも増加傾向にあり,在来種の生息を脅かしている。

 支川を合わせながら川幅を広くした中流部では,砂や砂礫の河床を澪筋が左右に頻繁に移動するなど,緩やかな流れの比較的大きな瀬,淵が連続し,ヨシ等の植生も豊かであり,湾曲部にはメダケ等の河畔林も生育している。魚類も,オイカワ,カワムツ,ヨシノボリ類や外来種のオオクチバス,ブルーギルなどに加え,泥質河床で流れのほとんどない淵を生息場とする絶滅危惧種のスナヤツメや,水際の浅瀬を好み,水草等を産卵場とするメダカも見られるなど,変化に富んだ河道となっている。

 下流部の二級峡直下は,岩,玉石が主体で植生もほとんど見られない渓谷状の様相を呈しており,その下流では比較的流れの速い瀬を好むアユが溯上している。さらに下流になると,川幅,勾配とも一変し,砂主体の河床部に中州が発達し,ヨシ等の水生植物も繁茂している。また,河口部の感潮域には,非常に緩やかな流れにしか生息しないゴクラクハゼ等の魚類が見られるほか,ツクシガモ,コアジサシなどの鳥類が飛来するなど,広々とした水面がゆったりと流れ,干潮時には大きな砂州が見られるようになる。

(3).流域の社会環境

 黒瀬川上・中流部の人口は,東広島市が約11万人,黒瀬町が約2万人であり,特に広島大学を中心に学園都市として整備が進む東広島市の人口増が際立っている。土地利用は,民有林を主体とする緩傾斜の山林や広大な水田等の農地利用が大半であるが,川沿いを中心に市街地が続き,大規模な宅地造成,工業団地等の開発が急である。また,下流部呉市の人口は約20万人であり,わずかに減少傾向が見られる。土地利用状況は,河口付近低平地部の市街地を除き,比較的急傾斜の山林となっている。

 主要交通としては,上流部東広島市内の山陽自動車道・国道2号・JR山陽本線と下流部呉市広地区の国道185号・JR呉線など東西に走る2系統の主要幹線があげられる。東広島市・黒瀬町・呉市では,黒瀬川沿いの国道375号とこれに並行し現在整備中の東広島呉自動車道を将来都市づくりの基軸と位置付けている。

 流域の歴史として,東広島市は,古くから行政・文化の中心として発展してきたが,広島大学の統合移転などを契機に,近年は学園都市として急速な発展を見せている。黒瀬町は,ほぼ全域が農業振興地域に指定され,都市近郊農業が営まれているが,近年は,広島市など都市に隣接する,恵まれた立地条件を生かした工場誘致等が盛んである。呉市は,明治以降,軍港として栄え,黒瀬川河口部の広村などを編入しながら急激な人口増加と市街地の拡張を続けてきた。終戦とともに一時人口が減少したが,その後,平和産業港湾都市として再出発を図り現在に至っている。広地区も呉市とともに発展し,JR広駅周辺の商業と沿岸部埋立地の工業地帯を中心に発展している。

(4).治水・利水・河川環境の現状と課題

1).治水

  黒瀬川は,古くから度々洪水被害にみまわれており,昭和7年から河口部の呉市広地区,黒瀬町域及び東広島市内上流部の1次改修を行ったが,その後も昭和20年9月の枕崎(まくらざき)台風による洪水で,呉市広地区において死者8名,流失家屋14戸,浸水家屋142戸などの被害を受けたのを始め,昭和37年7月,昭和42年7月豪雨などにも,家屋の流失・浸水,農地や道路の冠水等甚大な被害を生じたため,東広島市内の本・支川及び呉市域の河川改修工事に着手し,主に堤防を築くことによって治水安全度の向上に努めてきた。しかし,平成11年6月29日の集中豪雨により既往最大規模の洪水が発生し,呉市郷原(ごうはら)地区の支川長谷(ながたに)川及び黒瀬川本川付近で床上・床下浸水家屋78戸,農地冠水53ヘクタールの被害を生じるなど,越水,内水氾濫等により,本・支川で広範囲に被害を受ける事態に至った。このため,上・下流のバランス,本・支川の整合など水系一貫の観点に立ち,適切な安全度を有する新たな治水計画の策定と洪水防御対策の早期実施が課題となっている。

 2).利水

  黒瀬川水系では,農業用水として242ヵ所(許可水利17ヵ所,慣行水利225ヵ所)で取水され約1,900ヘクタールを灌漑しているほか,上・工水,発電などの都市用水として9ヵ所で取水されており,極めて多くの水利用がなされている。このことから,夏期を中心に深刻な水不足にしばしばみまわれたが,灌漑用水利用については,多くのため池が建設されるとともにきめ細かな水利用を行うことにより,近年では渇水時に大規模な農作物被害が生じることはなくなっている。

 一方,東広島市や呉市などの水道用水の安定供給については,近接する太田川(おおたがわ)流域に建設中の温井(ぬくい)ダムを水源とする広域水道に期待するところである。

3).河川環境

  黒瀬川では,本川及び支川三永川,古河川,温井(ぬくい)川,松板川,イラスケ川の全域が水質環境基準のA類型(BOD75%値2mg/l)に指定されており,本・支川を合わせて水質環境基準点9ヵ所を含む24ヵ所で水質観測を行っている。近年10ヵ年の観測結果をみると,本川下流部と中流部の境界にあたる二級ダム付近から河口部までの区間は,ダム周辺の市街化が進んでいないことやダム下流での下水道普及率が高いことなどから,環境基準を満足している。

 しかし,中流部では急速な開発と人口の増加により,BOD75%値が2~6mg/lと基準を上回り,やや悪化する傾向にある。また,上流部においても下水道の普及によって僅かながら改善傾向にあるものの同3~7mg/lと依然基準を上回っている。

 中・上流部の水質については,今後も市街化の進展とともに汚濁負荷量の増加が懸念されるが,流域の東広島市・黒瀬町・呉市では,黒瀬川流域別下水道整備総合計画に沿った公共下水道のほか,農業集落排水事業や合併処理浄化槽の普及など,水質改善に取り組んでいるため,漸次改善されていく見込みである。

 黒瀬川水系の天然記念物,景勝地等としては,下流部呉市内の県指定名勝で天然記念物の二級峡,支川小滝(こたき)川の白糸(しらいと)の滝や,毎年初夏に市民に開放される上流部三永水源地の藤棚などがあげられる。しかし,二級峡は上流の二級ダムからの取水のため,約800メートルの減水区間において洪水時以外に水が流れないことなどから,良好な河川空間として十分に利活用されてない状況にあり,今後関係機関等と調整し,これらの利活用促進を図っていくことが課題となっている。

 黒瀬川水系における魚類等の生息環境については,通常の渇水期では水量はかなり減少するものの河川が枯渇する現象は見られず,澪筋や瀬,淵などが残されており,生息を脅かすものではない。また,異常渇水となった平成6年においては,一部大規模取水堰直下で河川の枯渇が生じたが,この時も下流に残された澪筋や淵において魚類等の生息が確認されており,それらの河床形態を保全していけば生息環境への大きな問題は生じないものと考えられる。

 一方,河川改修等で河道を改変する際にも,スナヤツメやメダカなどの良好な生息場所となっている水際の植生や瀬,淵を復元するなど,河川環境に配慮した取り組みが必要である。また,ため池を生息場所とする魚類や鳥類等の生息環境を維持していくため,ため池の保全に向けた取り組みも必要である。

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