新たな精米方式による精米特性及び醸造特性の把握
山崎梨沙、大場健司、荒瀬雄也、大土井律之、*平田悠達、 *梶原一信、 *川上晃司
*この研究は、株式会社サタケと共同で行ったものであり、アスタリスクを付したのは同社の関係者です。
1 背景
一般的に、原料である米の精米歩合が小さいほど原料米の粗タンパク質含有量が下がり、清酒の製成酒の品質の向上が期待されます。扁平精米技術は1990年代初期に論証された技術ですが、従来の精米機では米が割れやすいうえに精米時間が長くかかるなどの多くの課題があり、一部の酒造会社でのみ採用されている技術でした。
しかし、近年、株式会社サタケが開発した新型精米機(図1)は、米への切削能力の高いcBN(立方晶窒化ホウ素)ロールを搭載しており、従来技術と比較し、短時間で効率的に扁平・原形精米を行えるようになりました。通常精白米は、長さ方向が削られ、丸みを帯びた形状となりますが、扁平精白米は、厚さ方向が優先して削られるため、米の外皮に多く局在する雑味のもととなる粗タンパク質の除去効率が良好です。加えて、原形精白は、厚さ、長さ方向が均一に削られ玄米の形状と相似の形状となり、扁平精白米同様に粗タンパクの除去効率が良好です(図2。扁平精米及び原型精米についてはこちらのページで詳しく解説しています。)。
2 方法
令和2年産広島県産中生新千本を用い、各形状(球形・原形・扁平)の70%精白米を用い、総米120kgの試験醸造を行いました。麹米は全て球形精白米、掛米は各形状の精白米を用い、清酒酵母は、広島令和1号(きょうかい901号改良株)を用いました。さらに、付加価値の探索ということで、清酒の貯蔵劣化臭の主成分であるジメチルトリスルフィド(DMTS:漬物様の香り)の生成し易さ(70℃1週間貯蔵後のDMTS生成量:DMTS生成ポテンシャル)を調べました。
3 結果・考察
使用した原料米の分析値を表1に示します。胚芽残存量が、球形、原形、扁平の順で多く、胚芽残存に伴い、ミネラルや脂質量が多い傾向が観察されました。
製成酒の特長ですが、扁平・原形精白米を用いると、製成酒のアミノ酸度が低下し、「キレイな味わい」「後味すっきり」の酒質となりました。また、扁平・原形精白米を用いるとバナナ様の香り成分の酢酸イソアミル量が増える傾向がみられました。これらの結果は、低い粗タンパク質だけでなく胚芽成分によって発酵の亢進と細胞内へのアミノ酸取り込みが増加した影響であると考察しております。
加えて、扁平・原形精白米を使用した製成酒は貯蔵劣化しにくい優れた特徴を有していました。扁平精白米醪でのメチレンブルー染色による酵母死滅率の低さが観察され、そのことが、貯蔵劣化しにくい原因であると考察しています。
4 食品企業に向けたPR
原料米の精米方法を扁平・原形精米に変更することで、雑味成分となるアミノ酸度を効率的に低減でき、香りや貯蔵劣化臭の生成し易さ等品質面での改善も図れます。近い将来、原料米の品種や精米歩合などに加え、精米方法も清酒を選ぶ際の判断材料となり、消費者が気軽に手に取れる価格帯で高品質な清酒を提供できるようになるかもしれません。
5 関連リンク
・このページに掲載の内容よりもさらに詳しい説明を、次のページに掲載の動画「1 新型精米機の開発と扁平・原形精白米の醸造特性解析」でご覧いただけます。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/26/r3happyoor.html
・扁平精米及び原形精米についての詳細な説明を次のページでご覧いただけます(再掲)。
「きれいな味わいのお酒」を生み出す「扁平・原形精米法」について
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/26/he-ge.html