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3-2 労使慣行に基づく退職金の支給は,一方的に打ち切ることが可能か|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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3-2 労使慣行に基づく退職金の支給は,一方的に打ち切ることが可能か

質問

私が勤務している職場では,就業規則に退職金の規定がありませんが,慣行として,退職金が支払われてきました。しかし,現在の景気低迷の中で,今年度から,退職金の支払いを行わないこととなりました。退職金が支払われることを期待していた従業員に対して,会社は何の責任もないのでしょうか。

回答

<ポイント!>

一定の取扱いが長期にわたって反復・継続されており,労働契約の当事者がそれを容認する意思を持つと認められる場合,使用者がその慣行を従業員の同意を得ないで,変更することはできません。

労使慣行とは

労使慣行とは,企業社会一般又は当該企業において,一定の事実が相当期間にわたり継続して行われ,これに従うことが労使双方で当然とされている場合をいいます。例えば,退職金の支給に関し,退職金規程はないが,これまでわずかの例外を除いて退職者全員に退職金が支給され,支給基準も同一であった場合は,退職金支給の労使慣行が成立していると判示されています(宍戸商会事件・東京地判昭和48年2月27日)。

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労使慣行の成立要件

それでは,労使慣行が成立しているというのは,どういう場合でしょうか。見解は分かれるのですが,最近の裁判例は,労使慣行の成立には次の三つの条件を満たすことが必要との考えに立っています(東京中央郵便局事件・東京地判平成3年8月7日など)。

  1. 同種の行為又は事実が長期間反復継続して行われていること
  2. 当事者がこれに従うことを明示的に排斥していないこと
  3. 当該労働条件についてその内容を決定し得る権限を有し,又はその取り扱いについて一定の裁量権を有する者が,これに従うことを当然としている(これを規範と考えている)こと

労使慣行の効力

労使慣行は,公序良俗や強行規定に反する場合は法的効力が認められませんが(法の適用に関する通則法第3条,民法第92条参照),それ以外は法的効力が認められ,具体的には,労働契約の内容となったり,就業規則又は労働協約の解釈基準として,その内容を補充したり,具体化する役割を演じることになります。

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労使慣行の変更

労使慣行は,上記のように,労働契約,就業規則又は労働協約と一体化して役割を演じるものですから,その変更については,ケースごとにそのいずれと一体化しているのか(労働契約と一体化しているのか,就業規則と一体化しているのかなど)見極めた上で,それぞれの変更方法によって変更することが可能です。これら変更方法に共通していえることは,当該労使慣行変更のための交渉・話し合い,意見聴取などを通じて慣行変更の合理性を十分に説明した上で,一定の猶予期間を置いて変更し,以後は当該慣行は認めないといった方法が必要だということでしょう(国鉄国府津運転所事件・横浜地裁小田原支判昭和63年6月7日参照)。

こんな対応を!

あなたの職場では長年にわたって退職金の支給が行われてきたというのですから,退職金支給の慣行が成立していたと考えられます。したがって,会社としては,相当の理由もなしに一方的に退職金の支給を打ち切ることはできません。しかし,本件の場合,景気低迷で経営が悪化したため退職金支給を打ち切るというのですから,もっともな理由がないわけではありません。とはいえ,特に,退職を目前にした中高年の方々にとっては退職金は退職後の生活を支える重要な資金ですから,使用者は十分に事情を説明するなどして(その際,経営状態を具体的に明らかにするのはもちろん,退職金不支給以外に経営改善の方法はないのか,経過措置はとれないのか,減額ではだめなのかなど解決策について話し合うことが大事です)労働者の納得を得るよう努めなければなりません。これを怠れば,退職金不支給は法的に認められないことにもなりかねません。一方,労働者も使用者に説明を求め,労使がともに企業の置かれた状況を把握し,解決策を見つけるために知恵を出し合うことが何よりも必要ではないでしょうか。