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8-5 突然の解雇は認められるか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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8-5 突然の解雇は認められるか

質問

私の勤める会社は業績が思わしくなく,今日,会社から「明日付けで解雇する。」と言われました。突然言われても,次の職を探す余裕もないので,困っています。突然に辞めろということは,許されるのでしょうか。

回答

<ポイント!>

使用者が労働者を解雇する場合には,少なくとも30日前に予告をするか,30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。

解雇には予告手続が必要

使用者が労働者を解雇しようとする場合には,少なくとも30日前に解雇予告するか,予告を行わない場合には,30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を労働者に支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項)。
ただし,この解雇予告制度は,次の者には適用されません(同法第21条)。

  1. 日々雇い入れられる者
  2. 2か月以内の期間を定めて使用される者
  3. 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者
  4. 試用期間中の者

しかし,これらの労働者についても,上記1の労働者が1か月を超えて引き続き使用された場合,2又は3の労働者がその期間を超えて引き続き使用された場合,4の労働者が14日を超えて引き続き使用された場合には,解雇予告制度の適用があります(同法第21条ただし書)。
また,次のいずれかに該当する場合にも,解雇予告制度は適用されませんが,その事由の存否については,労働基準監督署長の認定を受けなければなりません(同法第20条第1項ただし書,第3項)

  1. 天災事変のため事業の継続が不可能となった場合
  2. 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合

なお,解雇予告の日数は,平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができます(同法第20条第2項)。つまり,15日分の平均賃金を支払った上で15日前に解雇予告をするなど,予告期間と予告手当支給を組み合わせることも可能です。

就業規則等の定めに従うことも必要

就業規則や労働協約に定められた解雇手続や解雇事由も重要です。

  1. まず,就業規則についてみると,そこに定められた解雇事由を裁判例は一般に限定列挙と解し,それ以外の事由による解雇は無効と判断しています。また,就業規則の解雇事由に該当する場合であっても,判例は,解雇権濫用法理によるチェックをさらにかけ,解雇が不合理で社会通念上相当でない場合には無効としています(高知放送事件・最二小判昭和52年1月31日)。この解雇権濫用法理の趣旨は,労働契約法第16条で「解雇は客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして無効とする。」と明文化されました。これに対し,就業規則所定の手続(解雇に当たっては人事委員会や懲戒委員会にかけるなど)を踏まない解雇の効力については裁判例は分かれています。しかし,解雇の重大性に照らせば,慎重に事を運ぶのが望ましく,重大な手続違反(懲戒解雇の場合に弁明の機会を与えないなど)があった場合には,解雇は無効と解すべきでしょう。
  2. 次に,労働協約についてみると,そこに定められた解雇事由以外の事由でなされた解雇,所定の手続(解雇に当たっては労働組合と協議するなど)を踏まないでなされた解雇は,いずれも無効とされています。

こんな対応を!

このように予告義務に違反して解雇した場合,使用者は6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる(労基法第119条)とともに,労働者からの請求により,支払うべき未払金及びそれと同一額の付加金の支払を裁判所から命じられることがあります(同法第114条)。会社側に30日以上の予告期間をとるか,30日分以上の予告手当を支払うよう要求しましょう。
以上の点については異論がないのですが,問題となるのは,予告義務違反の解雇は無効となるかどうか(=私法上の効力)です。学説・判例は分かれていますが,最高裁はいわゆる「解雇相対的無効説」の立場にたち(細谷服装事件・最二小判昭和35年3月11日),予告義務違反の解雇通知は即時解雇としては無効であるが,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り

  1. 通知後30日の期間を経過するか
  2. 通知後解雇予告手当を支払ったとき

のいずれか早いときから解雇の効力が生ずるとの見解を採用しています。
なお,あなたが解雇は認めた上で予告手続の履行だけを求めるのではなく,解雇の効力を争う(=解雇無効を主張する)というのであれば,「人員整理のための解雇は,どこまで許されるか」の項を参照してください。

更に詳しく

労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合は,予告手続は不要とされていますが,この「労働者の責に帰すべき事由」について,行政解釈は次のような認定基準を示しています(昭和23年11月11日基発第1637号,昭和31年3月1日基発第111号)。
その判定に当たっては,労働者の地位,継続勤務年限,勤務状況等を考慮の上,総合的に判断すべきであり,「労働者の責に帰すべき事由」が解雇予告制度の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものである場合に限って,これを認定すべきである。そのような事例をあげれば,

  1. 原則として,極めて軽微なものを除き,事業場内における盗取,横領,傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合,また一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても,使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ,しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取,横領,傷害等刑法犯又はこれに類する行為を行った場合,あるいは事業場外で行われた窃盗,横領,傷害等刑法犯に該当する行為であっても,それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの,取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合
  2. 賭博,風紀紊乱等により職場規律を乱し,他の労働者に悪影響を及ぼす場合。また,これらの行為が事業場外で行われた場合であっても,それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの,取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合
  3. 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際,使用者の行う調査に対し,不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
  4. 他の事業へ転職した場合
  5. 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し,出勤の督促に応じない場合
  6. 出勤不良又は出欠常ならず数回にわたって注意を受けても改めない場合

なお,認定に当たっては,必ずしも上記の個々の例示に拘泥することなく,総合的かつ実質的に判断すること