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「保存料」,「日持ち向上剤」について

印刷用ページを表示する掲載日2025年2月7日

Q 食品添加物のうち、変質、腐敗防止や品質保持に用いる「保存料」や「日持ち向上剤」とはどのようなものを指すのでしょうか。

保存料とは

食品の微生物による腐敗、変敗を防止することにより、食品の保存性を向上させる目的で使用される食品添加物です。ただし、食品の日持ちをわずかに改善する程度の「日持ち向上剤」は除きます。
保存料は、安全性を評価した上で厚生労働大臣が指定した「指定添加物」と、長い食経験があるものについて、例外的に指定を受けることなく使用・販売などが認められた「既存添加物」に分けられます。
「指定添加物」に属する保存料は21品目(平成28年10月現在)あり、全品目に対象食品及び使用量基準が設けられており、安息香酸類やソルビン酸類が知られています。
「既存添加物」に属する保存料では、天然系の保存料5品目(平成28年10月現在)がありますが、指定添加物のような使用基準は設定されていません。
既存添加物が食品添加物名簿に「保存料」として記載される条件は、

  • 有効成分が明確であり、含量が相当高いこと。
  • 保存性の効果が科学的に立証され、成書に報告されていること。
  • 製品の最小阻止濃度が合成保存料に匹敵すること。

を満たすものとされ、「しらこたん白抽出物」(プロタミン)やポリリジンなどが知られています。

主な保存料

安息香酸類

世界各国で使われている代表的な保存料。日本では安息香酸と安息香酸ナトリウムが指定されています。 安息香酸類の保存性は酸性で効果が発揮される(酸型保存料)ため、使用する場合は食品を酸性領域にする目的でpH調整剤などを併用することが一般的であり、あらかじめ必要な成分を配合した製剤も開発されています。日本では醤油などの水溶性の食品を中心に使われています。

ソルビン酸類

安息香酸類と共に世界各国で使われている代表的な酸型保存料で、ソルビン酸は水に溶けにくい有機酸であるため、水溶性にしたソルビン酸カリウムやソルビン酸カルシウムも食品添加物として指定されています。カビ、酵母及び好気性菌に一様に静菌効果を持ち、幅広い食品群の保存性向上の目的で使用されています。静菌性は酸性領域で効果的に発揮されるため、ソルビン酸カリウムではpH調整剤などの酸性物質と併用したり、製剤化して使われることが多いです。

ポリリジン

天然系の既存添加物の代表的な保存料。放線菌由来で必須アミノ酸の一種のL-リジンが鎖状に結合したポリペプチド。発酵法で製造されており、抗生物質の類縁物ともいえます。カビを除く細菌類の生育を抑制する効果があり、熱に強く、食品の加工に耐え得ることと、使用基準が設定されていないため、各種の食品に幅広く使用されています。 メーカーからは乳糖などで希釈した製剤の形で供給されています。一般的には他の食品添加物を配合し、特定の食品に適した機能を持つ製剤として流通しています。このため、使用に際しては、それぞれの食品に適した製剤を選択することが可能です。

しらこたん白抽出物(プロタミン)

サケ、マス、ニシンなどの成魚の精巣(しらこ)のタンパク質を取り出し、酵素で分解して精製した塩基性タンパク質。プロタミンヒストンを主要成分とし、グラム陽性菌と一部の大腸菌に効果を発揮します。水溶性であり使用しやすいこと、熱に強く、中性からアルカリ性で効果を発揮するため、デンプン系の食品などに使われています。

日持ち向上剤とは

従来は主に家庭で調理されていた惣菜、サラダ等保存性の低い食品の加工食品化に伴って使用されるようになった、短期間(数日間内)の腐敗、変敗を抑えるための添加物です。
近年の消費者ニーズが健康志向であることから、加工食品の低塩分、低糖化が進んでいますが、塩分濃度や糖濃度が低下すると食品の保存性が悪くなるため、日持ち向上剤の重要性が高まってきています。
食品添加物名簿に「日持ち向上剤」という用途名は存在せず、物質名の表示のみで使用することが出来ます。
静菌作用を持つ有機酸類や、グリシン、チアミンラウリル硫酸塩、リゾチーム、各種抽出物(ニンニク、ローズマリー、孟宗竹、ワサビ等)を適切に配合して用いられています。
日持ち向上剤は保存料と比べ、食品の保存性を向上させる効果は弱く、また、食品の種類によって効果が異なるので、使用にあたっては注意が必要です。

使用上の注意

  • 商品に保存料を添加する場合、「保存料(〇〇〇)」と表示が必要です。
  • 保存料の中には食品衛生法で対象食品および使用量基準が設けられている添加物もあり、使用にあたっては注意が必要です。
  • 保存料、日持ち向上剤ともに「殺菌」効果を期待するものではなく、腐敗や変敗が始まるまでの期間を一定期間長引かせるという性質のものです。これらを使用した食品であっても、衛生管理の行き届いた環境と設備で製造し、貯蔵、流通を経て消費者の手に渡るまで取り扱いに際して十分に注意することが重要です。
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参考 主な「保存料」と「日持ち向上剤」について
  名称 分類 特徴 有効濃度、
静菌効果
効能 至適pH その他特記
保存料
用途名「保存料」と物質名併記。
安息香酸
安息香酸Na
指定 難溶性;0.36g/100ml
(Na塩可溶;53g/100ml)
※25℃
カビ、酵母、乳酸菌;<0.2%、
芽胞形成細菌;0.1-0.2%。
(pH5.5付近まで)
幅広い抗菌作用。
カビ、酵母、酸生産細菌はpH5.5を超えると発育阻止作用が弱まる。
酸性領域 ソルビン酸類と併用する場合は使用量合計1.0g/kg以下。
ソルビン酸
ソルビン酸K
指定 難溶性;0.16g/100ml
 (EtOH可溶;13.9g/100ml)
※20℃
0.05-0.2% 細菌、糸状菌、酵母 酸性領域
(pH5.5付近まで)
乳酸菌、酢酸菌、嫌気性芽胞菌には効果が期待できない。
ポリリジン 既存 水溶性
耐熱性(120℃、20分)
0.001-0.01%
※(Bacillus対策の場合)
グラム陽性・陰性菌、
カビ、酵母
酸性~弱アルカリ 放線菌(Streptomyces albulus)由来。
食味への影響少。
プロタミン 既存 水溶性
熱安定性(120℃、30分)
0.03-0.07% グラム陽性・陰性菌
(耐熱性芽胞菌)
中性~アルカリ領域 しらこ抽出物の強塩基性タンパク質。加熱可能な食品では耐熱芽胞菌に有効。腸内でトリプシンにより分解され消化吸収。
日持ち向上剤
物質名表示のみ。
グリシン 指定 抗菌力が食品pHや成分の影響を受けない。 0.4-0.7%
※グリシン感受性Bacillus
耐熱性芽胞菌を含むグラム陽性菌類全般
主にBacillus対策(Bacillus cereusには無効)。
pH6.0-8.0
Bacillus対策時はpH影響なし。)
甘みが強く食味に影響。1%程度の使用に抑える。
リゾチーム 既存 最大活性50℃ グリシン0.4-0.8%共存下で0.005%
BacillusE. coli静菌効果)
グラム陽性菌
(耐熱性菌を含む)
酸性~中性 グラム陰性菌、カビ、酵母には効きにくい。細胞壁を破壊する「溶菌酵素」。塩濃度5%以下での使用に限る。

参考資料

  • 食品添加物ハンドブック(第二版)(藤井清次、林敏夫、慶田雅洋共著、光生館、1997)
  • よくわかる暮らしのなかの食品添加物(谷村顕雄監修、日本食品添加物協会編、光生館、1994)
  • 天然由来添加物による殺菌・静菌技術(稲津康弘、川本伸一、日本食品科学工学会誌、2007、54(10)、pp. 425-435)
  • 保存料・日持向上剤による食品微生物の制御~ターゲット別に~(小池沙織、食品工業、2012、55(2)、pp. 55-63)

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