館長の吉村日出吉さんに取組を発表していただきました。
◆とき:平成22年10月8日(金曜日)
◆ところ:広島県福山庁舎
(平成22年度第2回広島県放課後子ども教室コーディネーター等研修会において)
平成12,13年当時は,学校は学校,地域は地域という感じでした。私自身は,小学校校長を退職して自由になる時間ができ,自分の生まれ育ったところを歩いてみよう,見て回ろうと志和堀公民館に出入りするようになりました。平成13年ごろのことです。当時は,広島大学教授を退官された宗岡さんが館長をされており,小さい子どもたちのことは任せるからボランティアをしてくれないかという話をもらったのがきっかけです。そして,平成16年から館長になりました。
平成14年4月から学校週5日制が実施され,ゆとり教育がはじまりました。そして,週3時間の総合的な学習の時間が始まりました。学校の先生たちは,教室内での指導は得意でも,山や川で子どもたちと一緒に遊んだり,虫や魚を採ったり,田んぼや畑で稲を刈ったり,野菜を育てたりということはなかなかできません。若い先生もほとんど経験がないということで,何をやればいいのか,週3時間をどうしたらよいのかと困られて,校長先生が公民館へ来られました。「志和堀は自然が豊かなところだから,ぜひ外部の先生の指導で自然体験学習がしたい。」ここから,地域と学校との連携が始まりました。
「子どもたちがのびのびと育つためには,いろいろなことを体験することが必要。これからの教育は社会的な教育が子どもの人格にかかわってくる時代。まず,子どもに興味をもたせる。子ども時代にいろいろな物事を解決するために,辛抱強く努力することが,大人になって必ず自信につながり,人生のプラスになってくる。」という宗岡元館長の考えのもと,自然体験学習協力会がスタートしました。このときに集まったのが「八人衆」です。
家の仕事にもゆとりがあり,ボランティアに出ても困らない人物。子どもたちも自立し,経済的にも困らないという人ばかり,建築士,大学教授,警察官,エンジニア,銀行員,県職員,自衛隊員,そして学校を定年退職した私,8人が集まりました。
今まで志和堀から他のところへ出て働いていた自分たちが,ここで恩返しをしよう,自分たちにできることをやろうということを話しました。私たちは子どもの頃,宗岡元館長から川で泳いだり,ナマズを採ったり,遊ぶことばかりを教えてもらいました。そういう人でも大学教授になれるのだから,自然の中で走ったり跳んだりすればどういう豊かな子どもになるかやってみようと子どもたちの支援をすることで考えが一致したのです。
まず,里山で,子どもたちがやったことがない竹やぶの整備をしたり,その竹やぶの中でたけのこを掘る授業をしたり,山に入ってコシアブラなど山菜をどうやって食べるか教えていきました。そういう中で自然体験の素地ができ,さらにそのような場を私たちが提供し,公民館と学校と地域とが連携を進めていきました。
子どもたちが,公民館で書道や大正琴をおじいちゃん,おばあちゃんと一緒に活動すれば,おじいちゃん,おばあちゃんたちもうれしいです。元気付け,活気付けになり,講座を休む人がいなくなりました。また,地域には,お年寄りがたくさんおられます。この方たちには,稲作り,野菜作り,もちつきなどをやってもらいました。
平成14年当時,志和堀小学校の児童は65人ぐらいで,複式学級になるかもしれないという状況でした。子どもが減り続けているので,西条やその他のところから志和堀へ来てもらおう,自然体験もやらなければならないが子どもを集めることもやろう,先生たちは,とにかく授業で力をつけることをしっかりやって欲しいと話しました。
次に私たちが取り組んだのが,空き家バンクです。志和堀で子どもを育てたい,通わせたいという人がいても,家がない,住むところがない,放課後に面倒を見てくれるところがないということでは来てもらえません。「地域の子どもは地域で責任を持って面倒を見て,子育てするのが原則」との声があがり,空き家を整備し,公民館で放課後の子どもたちを見ましょうということになりました。
平成16年度には,小規模特認校となり,東広島市内全域からの通学が可能になりました。そして,たった一人ですが,地域外から来てくれました。ちょうどその頃,新聞に志和堀小学校の算数,国語の学力調査の結果が紹介されました。算数は県で一位,国語は四位,外国人英語指導員による英語活動も毎日あり,地域の自然体験学習や放課後の見守り,空き家バンクの取組も紹介されました。これをきっかけに,よそから少しずつ目を向けてくださるようになり,平成17年度には6人が入学,転入をしました。
また,若い人が広島市へも通って勤め,おじいちゃんおばあちゃんのことも見るのが理想です。赤ちゃんを産んで育てやすいようにと海田のほうへ出て行った若い夫婦たちを地元へ呼び戻そうと,おじいちゃん同士でも呼びかけあっています。今では,80人半ばまで児童の数も増えました。小さな学校でも地域を上げてやれば子どもの数が増えるのです。
八本松の工場などで働いている人は,勤めの行き帰りに子どもを学校に送迎し,5時半ぐらいに迎えに来ます。学校で勉強をしっかり見てもらい,公民館という公共施設で放課後を見てもらえるという安心感が大切です。学校開校日は毎日開設していますので,1年生から6年生まで15人ほどが毎日公民館に来て,大人を含めると30人になることもありました。公民館には,館長の他に主事が一人いますが,子どもは走り回ったりするので,けがをさせてはいけないと心配しました。東広島市の大きな学校にはすべていきいき子どもクラブ(児童クラブ)がありますが,小規模特認校でありながら,志和堀小学校にはありませんでした。そこで,教育委員会と折衝して,1年生から3年生までの児童のために小学校のそば(集会所)に「いきいき子どもクラブ」を作ってもらいました。
現在,公民館に来るのは4年生以上の10人前後ですが,事務室にいて子どもの声を聞いているだけで,子どもがどのようなことをやっているのか,安全に遊んでいるかどうかわかるようになりました。6年生には下校が遅い子もいて,宿題だけやったら帰るということもありますが,スケジュールを組んで,できるだけ子どもたちが自分たちで安全に遊ぶことができるようにしています。危険なこと,やってはいけないことについては,すぐに厳しく指導し,誰が一番注意しなければいけないか,上意下達の仕組みを作って,上級生に役割を持たせています。
学校と地域との連携は,ホタル祭,サルビア祭,イチョウ祭の三大イベントを中心に行っています。どれも四半世紀を迎える伝統行事です。
志和堀では,地域みんなでサルビアを作ります。1年生は5月に地域のお年寄りと対面式をして,子どもたちとお年寄り80名でサルビアの苗をすぐポットに植えていきます。1時間目が始まるまでの15分で済む作業です。20日ほどで芽が出ると今度は2千本ぐらいの苗をプランターに植え換えます。そして,夏になると街中へプランターを置いていくのです。子どもや先生たち,PTA,地域の者みんなで取り組みます。そして,10月にはサルビアまつりという発表会をやります。今年も24年目が終わりました。
サルビア教室へ来た子もすでに中学生になりました。エリンギを育てたカスからカブトムシの幼虫が育ちます。これを掘り出すのを子どもは喜びますが,これをホタル祭で販売するのです。栽培や生産の体験をした子どもは,草花を大切にします。教育委員会の協力と地域の協力があれば,こういう地域の中に位置づいた行事を学校と地域が一緒になってやっていけるのです。
公民館たよりで子どもたちや地域のことについて情報発信をしています。今年度は,そうめん流しの様子をケーブルテレビで取材してもらい,番組にしてもらいました。子どもたちがお年寄りから教えてもらって作った蛍かごをたくさん飾ったり,子どもたちの活動の写真をパネルにして公民館の廊下に飾ったりすると住民の方もよく見てくださり,子どもたちも地域の人たちも喜んでくれます。
平成14年に始めた時,男性が8人,その妻である女性が8人。今でも20人ぐらいのボランティアがいますが,ちょっと手伝ってくれといったら集まってくれるそういう仲間がいることが一番大事だと思います。