「働き方改革先進企業経営者ミーティングHIROSHIMA」(第1回)を令和4年10月25日に開催し、広島県働き方改革実践企業(認定企業)の経営者層29名にご参加いただきました。
広島県の湯崎知事から、県では「働きやすさ」と「働きがい」の実現を両輪とした県内企業の働き方改革を推進していることや、参加企業に対して『本イベントを通じて企業経営における「働きがい」の重要性を理解いただき、働き方改革の先進企業として先駆的な取組につなげていただきたい』と期待が述べられました。
伊那食品工業株式会社の塚越社長に、広島にお越しいただき、特別講演としてお話しいただきました。
いい会社をつくりましょう ~社員の幸せを追求する経営の実践~
長野県伊那市に本社をおく伊那食品工業株式会社は、テングサやオゴノリが原料である寒天を中心に、かんてんぱぱ製品や食品素材を手掛ける食品メーカーである。売上高は約200億円、社員数はおよそ600名。増収を続けてきたが、2020年、2021年はコロナ禍の影響を受け減収減益となる。しかし社員全員の給与はそれまで同様、毎年2%以上の昇給を続けている。「社員の給与は経営の目的そのもの」と考え、必ず上げる事を約束している。業績に比例して給与を上げるのではなく、毎年必ず上げるために皆で頑張ろうと考えているからだという。
同社の経営の目的は「第一に社員が幸福になること」、社是に「いい会社をつくりましょう」を掲げる。同社には売上、利益、予算などの会社としての数値目標はない。塚越氏いわく「利益はウンチ。結果として出るものだから、毎日きちんとウンチ(利益)が出る健康な体(会社)にすることが大事。会社としての目標は数字だけで考えないことにしている。数字は社員の幸せを達成するための手段にすぎない」。
同社では営業会議、役員会にも数字の資料はなく、会議でも100%使わないという。「数字は結果であり、コンピュータの中にあるので、見ればわかる。会議では、今後の取組の話し合いや情報共有など、人が集まらないとできないことをするべきだ。」会社として各営業所の目標数字を定めないため、営業所ごとに自分たちで決める。岡山営業所では「前年の売上をクリアし、1円でも上げること」を目標として、各自が営業努力をする。営業所の会議では、他の営業所の自社商品の採用事例の共有等に時間を割き、目標数字の話は一切しない。
同社では社員に目的と手段の方向性だけを伝え、あとは社員が楽しく働くことができるように、社員自らの判断を促す。例えば、掃除をする目的は「掃除は気づき、成長の訓練」と社員には伝えるだけで、ルールも場所も時間も決めず、強制もしないようにする。社員は東京ドーム2個分に相当する3万坪のガーデンをよく見て、自分で掃除の場所、方法を考え、清掃に取り組む。毎朝、掃除を続けていると少しずつ汚れや雑草などの気づきが増える。こうした日々の訓練が、「自分で気づけるようになる」ための成功体験につながるという。
このように社員が自分たちで考え、自主的に行動するきっかけと場を提供することが重要だ。なぜなら、人に言われたことや人が決めたことはやる気にならないが、自分で決めたことはやるし、やろうとする。アスリートがパフォーマンスを高めるために自分で目標設定するのと同じで、会社が社内の目標設定や進捗確認を行うと社員のパフォーマンスを下げる要因にしかならない。
社長の思いや会社の理念が社員に伝わらない理由として、塚越氏は「社員が聞く耳を持てない」ことと「立場の違い」を挙げる。特別講演では、思いや理念を組織に伝えていくための同社の取組が紹介された。
まず「聞く耳」を持ってもらうためにやっていることの 1つが、100年カレンダーを配付し、自分の命日を考えさせ、「なぜ、働くのか? 何のために働くのか?」を自問させるというもの。マズローの欲求5段階説によると、生活や家族を養うために働くだけでは一番満足度の低い「生存欲求」しか満たされないのに対し、自分の成長のために働くことができれば、より高い「自己実現欲求」が満たされる。限りのある人生で最も長い割合を占める働く時間を、生存欲求と自己実現欲求、どちらのために働きたいか、社員自身が考えるきっかけを与えている。
もう1つは「みんなでやる」こと。朝の掃除、ラジオ体操、月例会、社員旅行、『かんてんぱぱ祭』、いずれも同社では社員全員で取り組む。上意下達より「みんなでやる」という横のつながりからの方が思いや理念が伝わりやすいからだ。「みんなでやる」というキーワードは、社員が自主的に考え、行動する習慣づけ、環境づくりになるという。
そのうえで、組織内の「立場の違い」を超え、思いや理念を伝えるために必要なこととして塚越氏が強調するのが「信頼関係」だ。「いくら正論を言っても社員との信頼関係がなければ、聞き入れられない。社是、社訓に掲げていることを社長や会社自体が本当に行っているか。言っていることとやっていることが同じであるか。うそをつかず本音で接することが社員の尊敬・信頼を得る」と言い切る。同社が社是とする「社員が幸せになる」体制の土台は、こうした考えにより築かれたといえる。
伊那食品工業が実践する『年輪経営』とは? そのために何が必要か
社員が恐れるのは会社が潰れること。会社が倒産せず、持続成長するために同社が提唱してきたのが『年輪経営』だ。数字ありきの経営ではなく、末広がりに段々と良くなることを最大の価値とし、今日より明日、何か一つでも良くなるように積み上げていく。方向性はさまざまでも、社員が将来に希望を持ち、楽しく幸せな状態であることを大切にしている。
社員の幸せを追求する同社には「幸せとは、楽しく仕事できることであり、嫌なことをしないことでもある。楽しく仕事できれば、自ずと良いサービス、良い商品が提供できる」という考えが根底にある。そんな同社にとって「社員は家族」。人事評価の基準が年功序列の横並びであることもその考えの表れだという。
こうした社員の幸せを追求する組織づくりをするために、塚越氏は、人事評価などのしくみだけでなく、商習慣を含む仕事の常識、やり方、経営の考え方などのマインドの転換を図り、実践してきた。
最高顧問でカリスマ経営者でもある父親の「後を継ぐ」のではなく、「年輪経営の道をつくる」という考えのもと、少しずつでも着実に良くなるということに重点を置き、自然体でいることを大切にして経営に臨んでいる、と特別講演を締めくくった。
広島県が考える働き方改革の方向性と働きがいのある会社
働き方改革コンサルタントであり本イベントのモデレーターである藤原氏から、県の考える働き方改革の方向性等についてお話しいただきました。
特別講演の振り返りと自社の「働きがい」の取組について、グループに分かれて意見交換と発表をしていただきました。
「働きがい」の向上と一口に言っても難しいが、まずは、社員が居心地がよい職場にすることではないだろうか。自分の居場所があり、ちょっとしたことにやりがいを感じられれば、意欲がわく。社員に合わせるというより、社員に寄り添う気持ちで取り組めば、それは社員に伝わり、「安心感」につながる。
ただ、社員の「働きがい」の向上を目指すことに躍起になって、社長ばかりが苦労しないことも大事。社長自身がつらいと思うことはやめた方がいい。無理をしていると、雰囲気で社員に伝わってしまうからだ。社員も社長も互いに心地よくいられる職場・関係をつくることが働きがいの向上の第一歩ではないだろうか。
イベントの最後には講師の塚越氏も交えた参加者同士の交流会を行いました。対面での交流が久しぶりという参加者の方も多かったようで、和やかな雰囲気の中、活発な情報交換が行われました。