ICTを活用して場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を実現する「テレワーク」。広島県は、感染対策だけではなく、個人のライフスタイルに応じた柔軟で自律した働き方を普及するために、県内企業向けにテレワークに関する導入支援策を展開しています。この連載は、テレワーク導入事例5社と各社の導入を支援した専門家に取材し、導入の利点やポイントなどをご紹介します。初回は、導入支援を手掛けたNPO法人ITコーディネータ広島の児玉学理事長です。
コロナ感染症が拡大し、一時的に多くの企業が導入したが、収束に伴ってやめたという話を耳にする。しかしテレワークの目的は感染対策だけではなく、やめてしまうのはもったいない。 やめた経営者からは、直接会う機会が減ると人間関係が希薄になる、現場があるので導入できない、などの意見を聞く。もちろんそれも理解できるが、0か100の話ではなく、良いとこ取りすることが大切だ。そうすれば、さまざまなメリットを享受できると確信している。
例えば採用面に有利に働く。就職活動中の大学生のうち約6割が、テレワーク制度の有無が企業選びに影響を及ぼすというデータ(学情調べ)がある。通勤時間の削減効果は分かりやすく、特に子どものいる社員はその時間を家事に当てられる。それが働く意欲や定着率の向上につながることは、ご理解いただけるだろう。
また業務の生産性向上にも直結する。テレワークにICT活用は欠かせないものだ。既存業務の流れを見直し、必要な分野にデジタル技術を使うことで、時短や省力化、ムダ・ムラ・ムリの削減につながる。ひいてはそれが今注目のDXにつながることを皆さんに知ってもらいたい。
まずは導入を阻む課題を可視化することから始めてみては。その分析に有効な「マンダラート」というフレームワークを紹介したい。3×3の合計9個のマス目からさらにその1マス1マスを深堀りすることができるツールで、これに業務プロセスを一つずつ書き込んでいく。これを活用すれば、さまざまな作業を細分化して洗い出すことができ、製造業や営業といった現場業務のある領域にもテレワークを導入できる可能性がある。
●成功するための要因は。
やはり優先順位が大切だ。高度なデジタル技術を取り入れても運用できなければ意味がない。まずはコストをかけず、できるところから始め、順を追って対象領域を広げてほしい。またテレワーク中の社員を徹底管理する「マイクロマネジメント」はお勧めしない。自主性を重んじる経営を進め、社員のエンゲージメントを高めるきっかけにしてもらえれば。