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1-1 採用内定が取り消された|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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1-1 採用内定が取り消された

質問

私は,来春卒業予定の大学生です。ある企業の採用試験に合格し,秋に内定通知を受け,会社側に入社誓約書を提出しました。ところが,先日,会社から業績の悪化を理由に内定を取り消したいという連絡がありました。時期的にこれから新しい就職先を探すのは困難なのですが,入社はあきらめなければならないのでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 使用者が採用内定を行い,それに対して学卒予定者等が誓約書を提出すれば,その時点で,使用者の解約権が留保された労働契約が成立したものと解されます。
  2. 採用内定の取消は,取消の理由が内定当時知ることができなかったか,知ることが期待できないような事実であって,社会通念に照らして相当と認められる場合に,可能とされています。

採用内定の法的性格

採用内定が取り消されると,時期によっては,その年度の就職をあきらめざるを得なくなり,労働者にとっては大きな問題です。したがって,学説・判例は,内定取消から内定者を保護するための理論を築いてきました。
この点,判例は,内定の法的性格について,「会社からの募集(申込みの誘引)に対し,労働者が応募したのは,労働契約の申込みであり,これに対する会社からの採用内定通知は,申込みに対する承諾であって,労働者の誓約書の提出とあいまって,これにより,労働者と会社との間に,労働者の就労の始期を大学卒業直後とし,それまでの間,誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと認めるのが相当である。」としています(大日本印刷事件・最高裁判決 昭和54年7月20日)。すなわち,採用内定によって,一定の解約権が留保された労働契約が成立していることになります。
もっとも,採用内定といっても,その実態は様々ですから,一概にこのようにいえるわけではありません。しかし,新規卒業者の場合についていえば,一般に,このようにいってよいでしょう。

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内定取消の適法性

採用内定により労働契約が成立すると考えられる以上,内定取消は,内定の際に留保された解約権の行使による労働契約の解約ということになります。したがって,結局は,内定取消ができるかどうかは,解約権の行使が適法か違法かの問題になります。
これに関して,最高裁は,前掲の大日本印刷事件で,「採用内定の取消事由は,採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できないような事実であって,これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としています。つまり,内定通知書や誓約書に記載された取消事由に該当したとしても,必ずしもそのすべての取消が認められることにはなりません。
取消が正当と認められる事由としては,通常,次のようなものが考えられます。

  1. 学校を卒業できなかった場合。
  2. 入社の際に必要と定められた免許・資格が取得できなかった場合。
  3. 健康を著しく害し,勤務ができない場合。
  4. 履歴書や誓約書などに虚偽の記載があり,その内容や程度が採否判断にとって重大なものである場合。(単に,「提出書類への虚偽記入」というだけでは,取消が認められない場合があります。)
  5. 採用に差し支えるような破廉恥な犯罪を犯した場合等。

ところで,ご質問は経営悪化を事由にする内定取消は,有効かというものです。このような内定取消が有効とされるのは,経営悪化が新規採用を不可能ないし困難とするようなものであり,かつ,この経営悪化が内定当時予測できないものであった場合に限られます。
最近の事例として,ヘッドハンティングによりマネージャー職にスカウトされた労働者に対する経営悪化を理由とする内定取消について,整理解雇の4要件(「人員整理のための解雇は,どこまで許されるか」の項を参照してください。)に照らし,その当否を判断すべきとし,会社の対応に誠実を欠くところがあったとして,採用内定取消を無効としたケースがあります(インフォミックス事件・東京地判平成9年10月31日)。

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こんな対応を!

以上のように,合理的な理由のない内定取消は,解約権の濫用に当たり無効とされます。このことを念頭に,次のような対応を取りましょう。

  1. 内定取消の理由について,具体的な説明がない場合は,文書での回答を求めましょう。具体的な理由が示されている場合は,内定通知書や誓約書に,その事由が記載されているかどうか,確認しましょう。
  2. 企業に労働契約の履行(入社日からの就労)を求めるとともに,賃金の支払を要求しましょう。なお,採用を繰り延べる場合には,自宅待機の期間を明確に設定するように求めましょう。
  3. やむを得ず内定取消を受け入れる場合には,補償措置について会社側と交渉しましょう。
  4. 会社側に誠意がみられない場合には,従業員としての地位保全・賃金仮払いの仮処分申請や損害賠償請求などの法的手段に訴える方法があります。

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更に詳しく

採用内々定

正式な採用内定に先だって,企業が採用を望む学生等に口頭で「採用内々定」であることを伝え,後日正式に書面で「採用内定」を通知するという場合があります。このような「内々定」の段階では,多くの場合,企業と応募者の双方とも,内々定により労働契約の確定的な拘束関係に入ったものと認識していると認めることは困難です。労働契約締結の申込みに対する承諾の意思表示である採用内定とは異なり,労働契約は,採用内々定の段階ではまだ成立していないと解さざるを得ません。したがって,「内々定」の取消は,労働契約の解約ではないことになり,仮に「内々定」の取消が違法な事由によるものであったとしても,労働契約成立への期待が裏切られたことに対する慰謝料請求が認められるにとどまります。なお,拘束関係の度合いによっては,「採用内定」と認められるケースもあり得ると思われます。

解雇予告と休業手当

内定取消は,使用者側からする労働契約の解除,すなわち解雇と解されますので,一般的には,労働基準法第20条により,30日前の予告か,あるいは30日分以上の平均賃金を支払うかのいずれかが必要であるとされています。しかし,このような予告期間や予告手当は不要とする見解もあります。
また,内定者が入社予定日以降に労務の提供を申し出たときには,使用者は,本来これを受領しなければならないわけですから,経営悪化など使用者側の事情で採用内定者の入社時期を繰り延べ自宅待機させる場合は,「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たり,使用者は,自宅待機の期間中,労働基準法第26条の規定によって,平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないとするのが多数説です。

公共職業安定所への通知

中学校,高等学校,大学,高等専門学校,盲・ろう・養護学校,専修学校,職業訓練校などを新たに卒業しようとする者を雇い入れようとする会社が,内定期間中に内定を取消す場合や内定期間を延長する場合には,あらかじめ公共職業安定所か学校長に,そのことを通知することとされています(職業安定法第54条,同法施行規則第35条)。この通知を受けた職業安定所は,場合によっては,雇入れ方法の改善について指導を行うことができます。