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11-2 通勤災害として認定されない場合とは,どのようなケースか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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11-2 通勤災害として認定されない場合とは,どのようなケースか

質問

私は,自動車で通勤しています。先日,会社の帰りに病院に寄ったのですが,いつも通勤の際に通る道に出た途端に,対向車に衝突されてケガをしてしまいました。会社側には,「途中で病院に寄ったのだから,通勤災害とはならない。」と言われましたが,納得がいきません。通常の通勤経路からはずれた場合,通勤災害とは認定されないのでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 通勤とは,就業に関し,住居と就業の場所との間を,合理的な経路及び方法により往復することをいいます。
  2. 合理的な経路を逸脱したり,通勤と無関係な行為によって通勤を中断した場合には,原則として通勤災害は認定されませんが,例外が認められています。

通勤とは

労働者が通勤によって被った負傷,疾病,障害又は死亡に対しては,労災保険法に基づき保険給付が行われます(労災保険法第7条第1項第2号)。
通勤災害は,法的には原則として業務上の災害(労働災害)とはみなされていないのですが,通勤途上の交通事故の頻発などの事情の下で,私的な事故として放置することは余りにも問題が多く,労働災害なみの補償を行うこととしているのです(昭和48年の法改正による)。
この場合の「通勤」とは,労働者が,就業に関し,住居と就業の場所との間を,合理的な経路及び方法により往復することをいい,業務の性質を有するものを除きます(同法同条第2項)。また,合理的な経路を逸脱したり,通勤を中断したりした場合には,その後は,原則として通勤とはみなされません(同法同条第3項)。

通勤災害認定の基準

以下に,通勤災害の要件を少し詳しく見ていきます。

就業に関し

「通勤」と認められるためには,業務と密接な関連をもっていることが必要です。つまり,業務に就くために,又は,業務に就いたために,就業場所と住居との間を行き来したものでなければなりません。
出勤するときに,通勤ラッシュを避けるために住居を早く出て,就業の場所へ向かう場合のように,ある程度の時間的な隔たりがあっても,就業との直接的関連性を失わせるほど長時間にわたらない場合は,通勤と認められます。また,2か所の事業場で働く労働者が1つめの就業の場所で勤務を終え,2つめの就業の場所へ向かう途中に災害に遭った場合も通勤になります。(3か所以上の事業場でも同様です。)

住居と就業の場所との往復

「住居」とは,労働者の就業の拠点となる場所をいいます。単身赴任者が赴任先住居と帰省先住居との間を移動している途中に災害に遭った場合も通勤となります。「就業の場所」とは,業務を開始し,又は終了する場所をいいます。会社の取引先で商談を行い,そのまま直接住居に戻る場合は,その取引先が「就業の場所」となります。

合理的な経路・方法

合理的な経路とは,一般に用いると認められる経路であり,社会通念に照らして判断されます。特段の理由もないのに著しく遠回りするような場合は,合理的な経路とはなりませんが,道路工事による交通規制のため迂回する場合などは,合理的な経路となります。

業務の性質を有するもの

事業主の提供するバス等を利用して出退勤する場合や,突発的事故等による緊急用務のため,休日に呼び出しを受け出勤する場合については,その途中に被った災害は,業務災害と解されます。
また,帰宅しようとした際,一般公道に出る前に,事業主が管理し事業運営のために専ら用いられている事業場構内の私道において,転倒して負傷した場合も,通勤災害ではなく業務災害として取り扱われます。

逸脱・中断した場合

「逸脱」とは,通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路からはずれることをいい,「中断」とは,通勤をいったん中断して通勤とは無関係の行為をすることをいいます。
逸脱や中断があった場合においては,逸脱や中断の間とその後の往復は,通勤には該当しなくなります。ただし,逸脱や中断が,日常生活上必要と認められる次の行為をやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は,逸脱や中断の間を除き,合理的な経路及び方法に復した後は,通勤となります。

  1. 日用品の購入その他これに準ずる行為
  2. 公共職業能力開発施設の職業訓練,学校教育その他これらに準ずる教育訓練であって,職業能力の開発向上に資するものを受講する行為
  3. 選挙権の行使その他これに準ずる行為
  4. 病院や診療所で診察や治療を受けることその他これに準ずる行為
  5. 要介護状態にある配偶者,子,父母,配偶者の父母並びに同居し,かつ,扶養している孫,祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)

こんな対応を!

上に述べたように,会社の帰りに病院で診察を受けたとしても,その逸脱・中断が最小限度のものであった場合は,合理的な経路に復した後は再び通勤となります。
お尋ねの事例は,通常の経路に復した後に負傷したとのことですので,通勤災害に該当すると思われます。会社側にそのことを説明し,通勤災害としての処理を依頼してください。

更に詳しく

たとえば,事業場構内の私道における負傷等の場合は,通常,通勤災害でなく業務災害と認定されます。通勤災害の場合と業務災害の場合とでは補償の内容は基本的に変わりませんが,次のような違いがあります。

  1. 労災保険法に基づく休業(補償)給付は,業務災害・通勤災害とも第4日目から支給されます(同法第14条第1項,第22条の2第2項)。休業の最初の3日間については,業務上の負傷・疾病の場合は,労働基準法第76条に基づき,当該労働者の雇用主である使用者に対し休業補償を求めることができます。これに対し,通勤災害は業務上の負傷・疾病ではありませんので,労基法に基づく休業補償の請求はできません。
  2. 通勤災害による療養のための休業期間は,労基法第19条において解雇が禁止されている「労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間」には算入されません。