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1-6 求人票に記載の賃金と実際の賃金が食い違う場合,どうなるのか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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1-6 求人票に記載の賃金と実際の賃金が食い違う場合,どうなるのか

質問

職業安定所を通じて現在勤めている会社に入社しましたが,採用時に示された賃金は,求人票に表示されていた額よりも低いものでした。この額については,特に変更することについて了解したことはありません。この場合,求人票に表示された賃金を求めることができるでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 会社が職業安定所に求人の申込みをするのは,法律上,申込みの誘引であり,これに対して,求職者(労働者)が職業安定所を通じて応募するのが契約の申込みであると,一般的に解されています。
  2. 会社が求人票に記載し,求職者に提示された労働条件は,その後の過程で,会社と労働者の合意でこれを変更したと認められるような特段の事情がない限り,労働契約の内容となリます。

求職者に対する労働条件の明示

求人票に記載され,求職者に提示された労働条件は,求職者がこれを信頼して労働契約を締結するかどうかを決定するものであることから,職業安定法第5条の3は,求人紹介の段階で,求職者に対して「従事すべき業務の内容及び賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めています。

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求人票に記載の労働条件

このため,求人者(会社)が求人票に記載し,求職者に提示された労働条件は,採用時などに双方が変更について特段の合意をしない限りは,労働契約の内容となるものと考えられます。
このことについては,次の判決でも認められています。
千代田工業事件において大阪地裁は,「公共職業安定所の紹介により成立した労働契約の内容は,当事者間において求人票記載の労働条件を明確に変更し,これと異なる合意をする等特段の事情がない限り,求人票記載の労働条件のとおり,定められたものと解すべきである」としています(昭和58年10月19日決定)。
お尋ねの場合は,会社から賃金額の変更に関する話が一切なかったようですので,求人票記載の賃金額で労働契約が成立しているものと思われます。

こんな対応を!

会社に採用されたとき,労働契約の内容を定めた書面を受け取り,公共職業安定所の求人票に表示された労働条件と比較し,労働条件が不利な場合,求人票による労働条件を守るよう求めましょう。

更に詳しく

見込み表示の法的効果

求人票に記載された労働条件に,「見込み」と明示されている場合,それが採用段階で若干変動することが含みとなっていることからも,募集内容や内定時の見込み賃金額等の条件をそのまま実行しなければならない義務は使用者にはありません。
八州測量賃金請求事件で東京高裁は,「求人票に記載された基本給額は,見込額であり,…最低額の支給を保障したものではなく,将来入社時までに確定されることが予定された目標としての額であると解すべきである。…更に,求人は労働契約申込みの誘引であり,求人票はそのための文書であるが,労働法上の規制はあっても,本来そのまま最終の契約条項になることを予想するものではない。」と判示しています(昭和59年12月19日)。
ただし,求人票に「見込み」と明示されたとしても,その後両者間で変更の合意等がなされなければ,その「見込額」が労働契約の内容になります。

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額の変更には合理的理由が必要

会社が,求人票により一定の賃金額を期待させたとすれば,最終的には労働契約によって労働条件が確定するとしても,求人票記載の賃金額とは異なる賃金額を支給したときは,使用者にまったく責任がないと言うことはできません。前掲八州測量賃金請求事件でも,次のように指摘しています。
「新規学卒者が少なくとも求人票記載の賃金見込み額の支給が受けられるものと信じて求人に応募することはいうまでもなく,…賃金は最も重大な労働条件であり,求人者から低額の確定額を提示されても,新入社員としては,これを受け入れざるを得ないのであるから,求人者はみだりに求人票記載の見込額を著しく下回る額で,賃金を確定すべきでないことは,信義則からみて明らかであるといわなければならない。」
会社が求人票に示した見込み額を入社時に不利益に変更する場合,会社は労働者に対し誠実に対応する義務があると言えます。
求人票発出後,急に会社の経営状況がひっ迫したなど,緊急性が認められる場合は別として,見込額を下回った理由やその切り下げの幅,切り下げについて事前の連絡の有無,その時期や方法などによっては,信義則違反として,損害賠償などが認められる可能性があります。

労働者の即時解除権

労働基準法は,「労働契約の締結に際し」,使用者は労働者に対して労働条件を明示しなければならないと定めています(第15条)。これは職業安定法による求人段階の労働条件の明示とは別のものです。そして,この際,明示された労働条件と実際の労働条件が異なっている場合には,労働者は労働契約を即時解除することができると定めています(同法第15条2項)。