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1-8 退職する場合には損害を賠償せよと言われた|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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1-8 退職する場合には損害を賠償せよと言われた

質問

私は,この度,家庭の事情で退職することを考えています。しかし,事業主は,突然の退職により,会社の事業に影響を及ぼすとして,退職する場合は,これによる損害賠償を行うよう主張しています。このような事業主の態度は,問題ないのでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 使用者は,暴行,脅迫,監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって労働者の意思に反して労働を強制してはいけません。
  2. 今回のような経済的足止め策が,実質的な強制と判断される場合も多くありますので,注意してください。

強制労働の禁止

労働基準法第5条は,使用者が,暴行,脅迫,監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって,労働者の意思に反して労働を強制することを禁止しています。この規定に違反した使用者には,労基法上で最も重い刑罰が課されることとなっています(同法第117条)。この強制の手段には,暴行・脅迫・監禁など法律で明記されているもの以外でも,損害賠償額の予定,前借金契約,強制貯金など経済的手段も含まれています。
なお,このような強要があれば,現実に労働が行われていなくても違反が成立することとなります。

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寄宿舎における自由の確保

労働者が使用者の管理する寄宿舎に住む場合,しばしば労働者の自由が不当に制限され,これが強制労働の温床となることが少なくありません。このため,労基法では,事業場附属の寄宿舎における労働者の私生活の自由を確保し,併せて,安全衛生上の措置を使用者に義務づける諸規定を設けています(第94条以下)。

経済的足止め策

この度の御質問にありました従業員の経済的足止め策も,「強制」に含まれる場合があると思われます。
具体的な事例を裁判例から見てみましょう。

  1. 賃金の約半分(15万円中の7万円)を勤続奨励手当とし,契約期間の途中で解雇されたり退職した場合には,労働者に,この手当相当額を会社へ返還することを義務付ける労働契約は,契約期間中の就労を強制するためのもので,強制労働の禁止又は賠償予定の禁止(労基法第16条)に違反し,無効である(東箱根開発事件・東京高判昭和52年3月31日)。
  2. 病院による看護師の雇入れに際し2年間の勤続を条件に給付された契約金について,2年内の中途退職の場合には,当該契約金の返還のほか,その2割相当額を違約金として支払う旨の労働契約は,看護師免許証を病院側に預けることが約束されていたことと併せ考えると,強制労働の禁止(労基法第5条)に反する経済的足止め策である(医療法人北錦会事件・大阪簡裁判平成7年3月16日)。
  3. 外資系企業における,サイニングボーナス(雇用契約の成約を確認し勤労意欲を促すことを目的とする金員で本件の場合は200万円。なお,本件労働者の年収は1650万円と決められていた)につき,1年以内に自らの意思で退職した場合にはこれを返還する旨の約定は強制労働禁止(労基法第5条),賠償予定禁止(同第16条)に違反し無効である(日本ポラロイド(サイニングボーナス等)事件・東京地判平成15年3月31日)

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こんな対応を!

労基法第5条により,労働者の意思に反して労働を強制することは禁止されていますが,従業員の経済的足止め策も,この強制に含まれる場合が多くあります。このため,御質問のような従業員の経済的足止め策については,労働者の意思に反した退職等の制限として,労基法に抵触するおそれがあります。
というのも,労働者の退職は,期間の定めのない労働契約の場合は予告期間さえおけば自由であり(民法第627条),使用者から責任を問われることはありませんし,また,期間の定めがある労働契約の場合(民法第628条)は,確かに契約期間中は解約できませんが,「やむを得ない事由」があれば解約は可能で,御質問にあるように「家庭の事情」(具体的にどういうことか不明ですが)というのであれば,あなたに過失があるとも思えませんので,損害賠償の責任が発生するとも考えられないからです。
法の禁止規定の趣旨を踏まえて,結果として労働者の意思に反した労働の強制が行われないよう,労使双方の話合いによる,雇用管理の適正化の実現が必要と思われます。