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3-4 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合の留意点は何か|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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3-4 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合の留意点は何か

質問

我が社には,圧倒的多数の従業員が加入する多数組合と,ごく少数の従業員で構成される少数組合とが併存しています。多数組合とは,賃上げについて交渉の妥結をみたのですが,少数組合は,賃上げの前提条件に反対したため,妥結に至らず,結果として少数組合の組合員についてだけ,賃上げを行いませんでした。少数組合側は,組合つぶしを企図した不当な差別であると反発しています。この場合,少数組合についても,賃上げを実施しないといけないのでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 団体交渉において十分な協議を尽くした限りは,労働条件に差異が生じて,少数組合員が結果的に経済的不利益を受けても,不当な差別とはなりません。
  2. 組合組織の動揺や弱体化を図ろうとする意図が認められる場合には,不当労働行為となります。

中立的態度の保持

同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には,各組合は,それぞれ独自の存在意義を認められ,固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されています。使用者は,労使関係のすべての場面で,中立的態度を保持し,その団結権を平等に承認,尊重しなければならず,組合の性格,傾向や従来の運動路線の違いによって差別的な取扱いをしてはなりません(日産自動車救済命令取消事件・最三小判昭和60年4月23日)。

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団交の結果,生じた差異

このように,各組合は,それぞれ自由な意思決定に基づいて,労働協約を締結し,あるいは締結を拒否する権利を有するのですから,団体交渉の結果,各組合の間に労働条件に関し差異を生じる結果となったとしても,それは,使用者と労働組合との間の自由な取引の場において,各組合が異なる方針や状況判断に基づいて選択した結果が異なるに過ぎません。したがって,差異が生じたことをもって,直ちに不当な差別ということはできません(前掲日産自動車救済命令取消事件)。

中立原則の例外

企業においては,均等な労働条件による統一的な勤務体制を取ることが望ましいのが普通です。この場合,併存する組合の組合員数に大きな開きがあるときは,多数組合の交渉力の方が大きい点を考え,使用者が多数組合との交渉及びその結果に重点を置くようになるのは自然のことであり,一概に不当とすることはできません。
したがって,ほぼ同一時期に同一内容の労働条件について提示を行い,それぞれに団体交渉を行った結果,多数組合とは合意が成立したけれども,少数組合との間では意見の対立が大きいという場合に,使用者が多数組合と合意に達した労働条件を受諾するように少数組合に求め,これを譲歩の限度とする強い態度を示したとしても,いずれの組合とも十分な協議を尽くした限りにおいては,非難すべきものということはできません。
また,このような場合に,労使双方が自己の条件に固執したため労働協約が締結されず,結果として組合員が経済的不利益を被り,組合の団結力の低下を招いたとしても,不当労働行為に当たるとは言えません(前掲日産自動車救済命令取消事件)。

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少数組合弱体化の意図の有無

ただし,使用者に少数組合弱体化の意図が認められる場合には,組合に対する支配介入や組合員に対する不利益取扱いの不当労働行為が成立します。
このような不当労働行為の典型的ケースは,後掲の日本メールオーダー事件・最三小判昭和59年5月29日のように,一時金交渉に当たって,使用者が多数派組合は抵抗なく受け入れることができるが,少数派組合には運動路線上容易に受け入れがたい前提条件を意図的に持ち出し,この条件を受け入れた多数派組合には一時金積上げ・支給を行い,前提条件受け入れに反対する少数派組合に対しては交渉を妥結せず,一時金の積上げ・支給を行わないといった場合です。

こんな対応を!

少数組合と誠意を持って十分な協議を尽くしてもなお,少数組合との合意が成立しない以上,会社側は,少数組合所属の組合員に対して賃上げを実施する義務はありません。こうした不利益は,少数組合の交渉方針に基づく当然の結末であって,これをもって会社側が少数組合に対して不当な差別的取扱いをしたということはできません。

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更に詳しく

不当労働行為とされた裁判例

日本メールオーダー救済命令取消事件・最三小判昭和59年5月29日

(事案) 会社側が一時金を上積みする前提として「生産性向上に協力すること」という条件を提示したもの。

(判旨)このような前提条件は抽象的で具体性を欠くものであり,しかも当時の社会的状況の中では労働強化等につながるという見方を否定できないという意味で,問題のあるものであったにもかかわらず,会社側は具体的に何をすれば良いのかについて十分な説明をしていない。
したがって,少数組合が受諾できないとしたことには理由があり,反面,会社側がこのような前提条件を付することには合理性がない。組合は,会社側が合理性のない条件に固執しているため,やむなく受諾拒否を選択したのであって,会社の交渉の仕方に原因がある。
会社側は,少数組合が受諾しないことを予想しながら敢えてこの前提条件を提案し,これに固執したものであり,しかも,受諾拒否の結果,一時金が支給されず,組合内部に動揺を来し,ひいては組合弱体化を招くことは,容易に予想できたものであり,組合弱体化の意図を有していたとの評価を受けてもやむを得ない。

前掲日産自動車救済命令取消事件

(事案) 従来から強制残業について反対してきた少数組合の組合員に,会社側が残業を一切命じない措置をとったのに対し,組合が残業をさせるよう申し入れたが,交渉の進展に至らなかったもの。

(判旨)不当労働行為に当たるかどうかは,単に,団体交渉において提示された妥結条件の内容やその条件と交渉事項との関連性,条件に固執することの合理性についてのみ検討するのではなく,交渉事項が発生した原因及び背景事情,交渉事項が労使関係において持つ意味,交渉事項に係る問題が発生したのちに労使がとってきた態度等の一切の事情を総合勘案して,判定しなければならない。
会社が少数組合員に対し残業を一切命じないとする既成事実の上で,組合との団体交渉を誠意をもって行わず,組合との間に協定が成立しないことを理由として,所属組合員に残業を命じないとしていることの主たる動機・原因は,少数組合員を長期間経済的に不利益な状態に置くことにより,組織の動揺や弱体化を図ろうとの意図に基づくものであったと推断されてもやむを得ない。