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5-6 みなし労働時間が実態と合っていない|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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5-6 みなし労働時間が実態と合っていない

質問

私の勤める会社では,営業職にみなし労働時間制がとられていますが,所定労働時間の8時間とされています。しかし,実態は,1時間ほど多い9時間を要しているのが通常です。会社側に問い合わせると,「所定労働時間に合わせておけば問題ない。」と言われましたが,納得できません。

回答

<ポイント!>

業務の遂行上,通常,所定労働時間を超えて労働することが必要な場合には,通常必要とされる時間が「みなし労働時間」となります。

みなし労働時間制とは

外勤の営業職のように社外で業務が行われる場合は,労働時間の正確な算定が困難な場合が多いものです。そこで,労働基準法は,「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において,労働時間を算定し難いときは,所定労働時間労働したものとみなす。」と規定しています(第38条の2第1項)。

適用条件

みなし労働時間制の適用基準は,次の2つです。
まずは,事業場外で業務が行われることです。労働の一部が事業場外で行われ,残りの一部が事業場内で行われる場合は,事業場外の労働の部分についてのみ,みなし計算の対象となりますが,事業場外労働が1日の所定労働時間帯の一部を用いて(ないしは一部にくいこんで)なされる限りは,このみなしの結果,結局,1日の所定労働時間だけ労働したこととなります(昭和63年3月14日 基発150号)。
次に,労働時間を算定し難いことです。事業場外で業務が行われていても,労働時間の算定が困難でなければ,みなし労働時間制は適用になりません。この点,行政解釈(昭和63年1月1日 基発第1号)は,次のように具体的に例を挙げて説明しています。
「次の場合のように,事業場外で業務に従事する場合にあっても,使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については,労働時間の算定が可能であるので,みなし労働時間制の適用はないものであること。

  1. 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で,そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
  2. 事業場外で業務に従事するが, 無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合(携帯電話や携帯端末などにより随時指示を受ける場合も含まれます。)
  3. 事業場において, 訪問先, 帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち,事業場外で指示どおりに業務に従事し,その後事業場にもどる場合

この点,裁判例においても,配達業務に従事する生協職員について,タイムカードによって時間管理され,予め曜日ごとに配達先,配達時刻が定められている配送コース表に従って配達がなされていたことを理由に労働時間が算定しがたい場合とはいえないとしたもの(千里山生活協同組合事件・大阪地判平成11年5月31日)や,建設工事現場に出張して検査業務に従事した労働者について,出張者は2名以上でうち1名が責任者とされていること,出張に際しては「作業報告書用紙」(作業現場名・出勤時間・退出時間・作業開始時間・終了時間・客先印等の欄あり)を携行し,責任者が該当事項を記入し客先から押印を受けることなどから,労働時間を算定しがたい場合とはいえないとされたもの(日本工業事件・横浜地川崎支判昭和49年1月26日)などがあります。

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所定労働時間を超える場合

例えば,事業場の所定労働時間が8時間であるのに,事業場外の業務については,通常9時間を必要とする場合には,どうなるのでしょうか。
労基法第38条の2第1項ただし書は,「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては,当該業務に関しては,……当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。」と規定しています。ここでいう「通常必要とされる時間」とは,通常の労働者が通常の状態でその業務を行うために客観的に必要とされる時間をいいます。
この場合,過半数労働組合(ない場合には,過半数代表者)との労使協定で,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」を定めることができます。
協定の締結に当たっては,事業場外労働の対象となる労働者の意見を聞くことが望ましく(前出行政解釈),有効期間を定め(同法施行規則第24条の2第2項),協定を労働基準監督署に届け出なければなりません(同法第38条の2第2項)。

時間外等との関係

みなし労働時間制によって算定された時間が法定労働時間を超える場合には,その超える部分は,時間外労働となりますので,割増賃金の支払いが必要です。
また,当然,三六協定の協定時間の範囲内でなければなりません。
更に,深夜業や休憩,休日労働の規定も適用されます。

こんな対応を!

お尋ねのように,営業の業務を遂行するためには,所定労働時間の8時間を超えて,9時間労働することが通常必要であると客観的に認められる場合には,9時間をみなし労働時間とし,更に,そのうちの1時間分については,時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。
そのことを会社側に説明し,みなし労働時間を実態に合わせて9時間とするよう,求めましょう。この場合,労使協定でみなし労働時間を定めておくことが望ましいでしょう。