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労働契約・就業規則・労働協約|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年8月1日

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 労働契約・就業規則・労働協約

労働契約の成立

労働契約とは,労働者が使用者に対して労務を提供することを約束し,これに対して使用者が賃金を支払うことを約束する契約です。
労働契約は,必ずしも書面で締結しなければならないわけではなく,双方が合意すれば,口約束だけでも有効に成立します。

労働契約の締結に関する規制

労働基準法では,労働契約の締結に関して,次のような規制をしています。

1.賠償予定の禁止(第16条)

期間の定めのある契約の場合に契約期間の途中で会社を辞めてしまった場合などの違約金や,労働者の不注意で会社に損害を与えてしまった場合などの損害賠償金の額を,あらかじめ取り決めておくことは禁止されています。もっとも,これは違約金や損害賠償の額を「あらかじめ」定めておくことを禁止するもので,労働者の非違行為などにより会社がこうむった損害について当該労働者に賠償請求することを禁止するものではありません。

2.前借金相殺の禁止(第17条)

労働者にお金を前貸しして,その返済に充てるためにその後の給料から貸した分を給料から差し引くことも許されていません。これを許すと,前借金のために労働者が会社を辞めたくても辞められないことになりかねないからです。

3.強制貯金の禁止(第18条)

使用者は,労働契約の締結・存続の条件として,労働者に貯蓄をすることを強制することはできません。
ただし,使用者が労働者から委託を受けた場合は,過半数労働組合又は過半数代表者と書面で協定を結び,これを労働基準監督署に届け出るなど,一定の要件を満たせば,労働者の貯蓄金を管理することは可能です。

4.契約期間(第14条第1項)

期間の定めのある労働契約を結ぶ場合は,その期間は原則として3年を超えてはいけません。ただし,次に掲げる場合には,契約期間の上限は,5年になります。

  • ​ア.専門的な知識,技術又は経験を有する労働者との間の労働契約 この場合の労働者は,厚生労働大臣の定める基準(平成15年10月22日厚労省告示356号)に適合する「高度の専門的知識等」を有する労働者であり,そのような知識等を必要とする業務に就く人を指します。具体的には,博士の学位を持っている者,公認会計士,医師,弁護士,機械・電気・土木などの技術者であって大学卒業後5年以上の実務経験を有し年収が1075万円以上の者などが含まれます。

  • イ.満60歳以上の労働者との間の労働契約

上記ア,イのほか,例えば,3年6か月の工期の土木工事に技師を雇い入れる場合など,一定の事業の完了に必要な期間を定める場合は,3年や5年を超えても良いとされます。

5.有期契約の締結,更新及び雇止めに関する基準(第14条2,3項)

パートタイマーなど非正規労働者の増加,有期契約期間の上限引上げなどの事情のもと,有期契約をめぐるトラブルが多発することが予想されます。そこで,その対策として「有期契約の締結,更新・雇止めに関する基準」(平成15年10月22日厚労省告示357号)を定め,これに基づいて行政指導・助言を行うことになりました。
そのあらましは次のとおりです。

  • 使用者は有期労働契約の締結に際し,更新の有無,更新がある場合は更新・不更新の判断基準を明示すべきこと。

  • 更新しないこととする場合には契約満了日の少なくとも30日前までにその予告をなすべきこと。

  • 更新しない場合で労働者がその理由についての証明書を請求した場合には遅滞なく交付すべきこと。

  • 当該契約を1回以上更新し,かつ雇い入れ日から起算して1年を超えて継続勤務している有期労働者について更新する場合には契約期間をできるだけ長くするように努めるべきこと。

なお,労働組合法は,使用者が労働者を雇用するときに,労働組合に加入しないことや労働組合から脱退することを条件とすることを禁止しています(同法第7条第1号)。

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労働条件の明示義務(労働基準法第15条)

使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して労働条件を明示しなければなりません。更に,賃金や労働時間などの事項については,書面の交付の方法によって明示する必要があります。
明示された労働条件が実際のものと異なる場合には,労働者は,即時に労働契約を解除することができます。この場合,就業のために住居を変更した労働者が,契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては,使用者が必要な旅費を負担しなければなりません。

 

 

就業規則の作成義務(労働基準法第89条)

常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成し,労働基準監督署に届け出なければなりません。「常時10人以上の労働者を使用する」かどうかは,事業場ごとに判断され,パートタイム労働者を含み算出します。繁忙期のみ10人以上を使用するという場合は,これに該当しませんが,使用する労働者が一時的に9人以下となることがあっても「常時10人以上使用している」ことになります。
次の表のとおり,労働条件の明示を要する事項と,就業規則の作成を要する事項は,ほとんどの部分で重なりあっていますので,労働条件を明示する場合,就業規則を示しながら説明することが多いようです。​

就業規則の事項
事項 明示事項 就業規則記載事項
労働契約の期間に関する事項 不要
就業の場所,従事すべき業務 不要
始業・終業の時刻,所定労働時間を超える労働の有無,休憩時間,休日,休暇,労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
賃金(退職手当,臨時に支払われる賃金・賞与,臨時に支払う賃金,賞与に準ずるものを除く。)の決定,計算・支払の方法,賃金の締切り及び支払の時期,昇給に関する事項
退職に関する事項(解雇の事由を含む)
退職手当の定めが適用される労働者の範囲,退職手当の決定・計算・支払の方法,退職手当の支払の時期に関する事項
臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。),賞与,臨時に支払う賃金・賞与に準ずるもの,最低賃金額に関する事項
労働者に負担させるべき食費,作業用品その他に関する事項
安全・衛生に関する事項
職業訓練に関する事項
災害補償,業務外の傷病扶助に関する事項
表彰及び制裁に関する事項
休職に関する事項 不要
そのほか,その事業場の労働者のすべてに適用される事項 不要

 (注意)
「明示事項」欄の「◎」は書面の交付による明示を必要とする事項を表し,「○」は使用者がこれらに関する定めをする場合において,労働者に対して明示を要する事項を表します。
また,「就業規則記載事項」欄の「◎」は必ず記載を要する事項を表し,「○」はそうした定めを作るのであれば就業規則に記載しなければならない事項を表します。

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就業規則作成等の手続(労働基準法第89条,第90条,第106条)

就業規則を作成・変更するときは,使用者は,労働者側(過半数労働組合又は過半数代表者)の意見を聴いた上で,その意見を記載した書面を添えて就業規則を労働基準監督署に届け出なければなりません。
使用者は,就業規則を労働基準法の要旨や労使協定などとともに,労働者に周知させなければなりません。その周知の方法については,次の3つのうちのいずれかによらなければなりません。

  1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付ける。

  2. 書面を労働者に交付する。

  3. 磁気テープ,磁気ディスク等に記録し,各作業場に労働者がその記録の内容を常時確認できる機器を設置する。

なお,これら手続をとっていない就業規則の効力が問題となります。判例・学説とも意見は分かれていますが,最高裁は最近の判決で,上記手続のうち周知手続について見解を明らかにし,周知手続をとっていない就業規則は効力を有しないと判示しました(フジ興産事件・最二小判平成15年10月10日)。

 

労働協約の意義

労働協約とは,労働組合と使用者が,労働条件等,労使関係に関する事項について合意したことを文書に作成して,その双方が署名又は記名押印したものをいいます(労働組合法第14条)。労働協約の有効期間中は,その協約に定められている事項の改定・廃止を目的として争議行為を行うことはできません(平和義務)。
就業規則は,労働者代表の意見を聴くにしても,結局において使用者が定めたものであるのに対して,労働協約は,労使の合意に基づいて締結されるものである点において,基本的な違いがあります。

 

 

就業規則と労働協約等の関係

労働契約の内容は,労働基準法で定められた条件を下回ってはならず,下回る部分については無効とされ,労働基準法で定める基準とされます(労働基準法第13条)。
更に,労働契約において,就業規則で定める基準に達しない労働条件を定めたとしても,その部分は無効とされ,就業規則で定める基準によることになります(同法第93条)。
また,就業規則は,法令や労働協約に反してはならず,労働基準監督署は,法令や労働協約に反した就業規則の変更を命ずることができます(同法第92条,労働契約法第12条)。
労働協約と労働契約との関係では,労働協約の基準に違反する労働契約の部分は無効とされ,無効となった部分や労働契約に定めがない部分については,労働協約の定めるところによるとされています。(労働組合法第16条)

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