法人名 | 八千代工業株式会社 |
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所在地 | 広島市安佐北区可部1丁目1番4号 |
URL | https://www.yachiyo-industrial.com |
従業員数(うち女性人数) | 134名(78名) |
管理職数(うち女性人数) | 22名(6名) |
(2023年8月時点)
2023年に60周年を迎えた手縫い針の製造メーカー。手芸用品、毛糸、文具、玩具、レジャー用品などの商品を取り扱っています。さらに、2019年には会社の敷地内でスプラウトニンニクの水耕栽培をスタート。幅広い分野へと社業の場を広げ、ここ10年で社員は倍増し、その約6割が女性です。
左から 手島さん、武さん、佐々木さん、長谷川さん。
取材に答えてくれたのは…
総務経理部 長谷川 麻世(はせがわ あさよ)さん
社内の女性活躍推進プロジェクトリーダーです。
生産物流部 次長 手島 真澄(てしま ますみ)さん
男性社員が多い生産物流部で唯一の女性管理職。女性初の次長として部署をまとめています。
SCM部 係長 武 里紗(たけ りさ)さん
プロジェクトの取組のひとつである、社内プレゼンテーションのキーパーソン。精神保健福祉士としての経歴を活かしコミュニケーションの重要性を訴えました。
第二営業部 佐々木 和子(ささき かずこ)さん
入社後、二度の育休を取得し、プロジェクトではその経験をもとに、子育て中の女性ならではの悩みなどを発信しました。
八千代工業株式会社のアドバイザーは…
新中 富士子(しんなか ふじこ)さん
「新中社会保険労務士事務所」代表。社会保険労務士として人事労務管理に加え、キャリアコンサルタントの立場でも、多様な人材が実力を発揮できる職場づくりを支援。SDGsの視点を取り入れ、持続可能な組織&キャリア形成・人材育成を提案しています。
女性社員が全体の6割を超えているのに、女性管理職は3割未満という八千代工業の現状。男女を問わず社員全員がいきいきするために、今会社に必要なものは何でしょうか? プロジェクトチームを立ち上げ、ボトムアップ方式で課題解決に挑んだそのストーリーに迫ります。
長谷川 ここ10年、事業部門が広がり社員数が増えていくなかで、女性社員の数も増えているのに管理職は3割に届かない状況でした。人材登用の公平性や自社商品の特性からも、女性の視点は大切です。女性が活躍するためには、結婚や出産といったライフイベントが発生しても管理職を続けられたり、育児中であっても管理職登用に挑戦できるようなフォロー体制が必要でした。まずは女性が働きやすい職場作りから始め、ロールモデルを作り、人材を育成していくシステムを構築すること。それが全社員の活躍できる職場、組織となり、ひいては社員の満足度やお客様の満足度に繋がると考え、取組をスタートしました。
長谷川 まずは公募と人事部門からの推薦でプロジェクトチームを立ち上げ、各部署から11名を集めました。チーム名をメンバーから募集して「Wake Up!」に決めました。この名前には「女性も男性も新しいことに気付こう、目覚めよう」という意味が込められています。チームが最初に取り組んだのは、女性管理職の誕生を阻害している要因の洗い出しです。全社員にアンケートを取ると、「管理職は仕事と家庭の両立が難しい」「業務が多く責任も重そうなのでなりたいと思わない」という声が多く寄せられました。この結果をもとに、管理職の働き方の見直しと、業務を分散するための権限移譲が最優先という結論にたどり着きました。
手島 女性の管理職を増やすためには、私を含め、今いる女性管理職がいきいき活躍していることが大切です。管理職が楽しみながら仕事をしている姿を見せることで、「こうなりたい!」と思ってくれる女性が一人でも増えればいいと思いました。そのために必要な管理職の働き方改革、IT化、権限移譲の実現には、経営層の理解と協力が不可欠です。そこで、経営層へプレゼンを行うことになりました。
長谷川 プレゼンでは「業務効率化」「スライドワーク」「人材育成」「コミュニケーション」の4テーマを掲げ、それぞれを2人1組で担当しました。
武 私は精神保健福祉士だった経歴を活かし「コミュニケーション」を担当しました。全社員が気持ちよく働くためにはコミュニケーションを主体とした心理的安全性の確保が重要だと訴えました。
新中アドバイザー 経営層へのプレゼンで重きを置いたのは、女性活躍推進の重要性を伝えることです。社会的背景を踏まえると、持続可能な企業となるには多様な視点を経営に活かす必要があります。女性活躍推進は経営戦略の一つであることを理解してもらえるように…とアドバイスしました。
長谷川 2022年12月に管理職以上が出席する会議でプレゼンし、出席者にアンケートを実施したところ、ほとんどの方から賛成という意見をいただきました!2023年1月には従業員全員が集まる総会にて全社員に周知共有を進めました。
長谷川 プロジェクトはたびたび壁に直面しました。特にプレゼンの内容を考える場面で行き詰り、まったく進まない状況が続きました。そんな時、参考になる資料やアドバイスをいただき、目的やゴールを再確認して、方向性がぶれないように導いてくださいました。
新中アドバイザー プロジェクトチームの立ち上げには意図があります。部署横断的ヨコの連携と、女性社員成長の機会の創出です。しかし、実際、阻害要因を洗い出してから行き詰っていたのは私も一緒です(笑)。思いついたアイディアを全力で出し、一緒に一歩一歩進みました。なかでも、今抱えている課題をいったん脇に置いて、個々が将来のありたい姿を想像する「ミラクルクエスチョン」という技法を取り入れた時には、マイナス思考になって解決策が見出せずにいた話し合いがスムーズになったと感じました。「経営理念を具現化してみよう」という佐々木さんのアイデアも、大きな突破口になったと思います。
佐々木 みんなが共通の認識を持てる経営理念を活かせば、バラバラだった方向性を修正して、同じ方向を向けると思ったんです。
新中アドバイザー 会社としての理念と一人ひとりの働き方をリンクさせながら考えたことで、どこか他人事だったプレゼン内容が、メンバーそれぞれの「自分事」として捉えられるようになったのではないでしょうか。こうして生まれたプレゼンでは、当初AIの音声を使う予定でしたが、熱意が伝わるようにメンバーの声を吹き込んで作りました。絶対に成功させる!という覚悟を持って取り組んだ結果、プロジェクトに多くの共感を得ることができました。
長谷川 このプロジェクト活動がメンバーの成長に繋がったのは間違いないと思います。
手島 プレゼンで提案したスライドワーク(始業・終業時刻の繰り上げ繰り下げ)は、2023年7月から生産物流部の一部で導入されました。部内では、「制度導入により残業が減り、時間管理に対しての意識も高まった」と良い反応がみられています。事務職でも半数以上がスライドワークを活用したいと答えたので、来期には導入される予定です。プロジェクトからの提案で実現したことは大きな成果だったと思います。
長谷川 一番印象に残っているのは、やっぱりプレゼン。他部署との交流がほとんどない中、社内の垣根を超えて同じ課題と向き合えたことは貴重な経験になりました。私たちの考えを会社に提案できたことは、ボトムアップ推進の礎にもなったと経営陣から評価していただきました。この活動は、社内コミュニケーションの活性化と社員の主体性を育み、ボトムアップ体制の構築に繋がったと感じています。
武 プレゼン内容に行き詰った時に取り組んだ、未来志向の考え方も新鮮でした。
佐々木 特に「ミラクルクエスチョン」は、自分たちの中にある偏見や思い込みを取り除くことに繋がったと思います。
長谷川 プレゼン後に女性課長が2名誕生し、その他にも短時間勤務の女性係長が現在3名います。今後は彼女たちのフォロー体制を築き、ロールモデルとして活躍してほしいと考えています。女性だけでなく、みんなが自分の目指す姿やワーク・ライフ・バランスに沿って能力を発揮できる環境を整えていきたいです。
新中アドバイザー プロジェクトチームはメンバーを入れ替え、男性3名が加わりました。さらに外国籍の社員も参加しています。この取組に正解はありません。女性管理職2名誕生という数値目標だけでなくプロセスを大切にしながら、全社員がライフステージやキャリアコンディションに応じて活躍できる職場風土、文化を一緒に作っていきたいです。
(取材日 2023年10月)