平成30年11月16日(金) 14:35~15:25/県立戸手高等学校
県立戸手高等学校/3年生 11名
メイン:野田 千代
県立戸手高等学校の母性看護の時間に「親プロ」を活用した講座が実施されました。
担当の先生が自らファシリテーターとなり講座を進行しました。
また,公開授業として行われ,他の先生たちも見学に来ていました。
生徒たちは事前課題として赤ちゃんのベッドを作り,赤ちゃんに見立てた卵に顔を描いてそのベッドに寝かせ,袋に入れて持ってきていました。
3~4人のグループになり授業が始まると,作品が入った袋を隣の生徒に渡して開けてもらいました。
袋を開けるとそれぞれ趣向を凝らした赤ちゃんのベッドが出てきました。生徒たちからは「すごい」「かわいい」と歓声が上がりました。そして付箋に友達の赤ちゃんの感想を「ほめほめ言葉で」書いて作品と一緒に返しました。
「赤ちゃんのベッド作り」の事前課題は,ファシリテーターが独自に盛り込んだワークです。生徒たちは自由な素材でベッドを作成し,どのように作ったか,作りながら思ったことをオリジナルのワークシートに記録していました。また,卵に顔を描き命名したあと,どうしてその名前にしたかについても記録していました。これは教材1の最初のワークです。
事前課題を設定することにより通常100分程度の時間が必要なこの教材を短時間(50分)で実施できるだけでなく,「赤ちゃんのベッド作り」のような新たなワークを盛り込むことで生徒がテーマにじっくり向き合う時間を作ったりできるという効果がありました。
生徒は事前課題をしながら14日間の「親になる準備期間」を過ごしたあと,今日のワークに取り組むことになりました。
ベッドの素材や思いについてオリジナルのワークシートには,
「どれだけ赤ちゃんが楽に寝れるかなとか,どんなベッドだったら嬉しいかなと考えながら作りました」「赤ちゃんは女の子の設定なので枕にウサギをつけて名前を考えたりしました。どのように作ろうか考えながら作ることができたのですごく楽しかったです。愛情を込めました」「私が2月のとても寒い時期に生まれたので,お母さんは私が寒くないようにいろいろと工夫していたと言っていたので,私も赤ちゃんが少しでも温かく過ごせるようにと心掛けました」「自分が入っていたようなかごにしました。母性なのかボンドでくっつけようと思っていたのに,いざとなったら縫ったり編んだりしてしまいました」「何をしている時も『どうすればもっと良くなるかな』という疑問を持って取り組んでいました」「赤ちゃんが寒くないように考えながら作りました。だからもこもこの布を作ったりして工夫しました。ベッド作りを始めて2週間,材料を買う時も作っている時も常に赤ちゃんのことを思いながら作りました。短い期間だったけどとても良い経験になりました」といったことが書いてありました。
※下の2つの写真は,前年度の作品です。
次にファシリテーターが教科書の該当箇所を示しながら,生徒に「母性とは」の定義を読んでもらい,「母性行動」「先天的」「後天的」「社会的文化的」「母性意識」「アイデンティティ」といったキーワードにマーカーを引きながら本時の目標「親のイメージ化を図り,子どもに対する親の思いと責任の重さを理解する」を確認しました。その後3つの約束を話して教材1のワークシートに入りました。
生徒にテーマを読んでもらい赤ちゃんの名前を紹介し合いました。
どういう人になって欲しいか,好きな音色の響き,生まれた季節,漢字にするかひらがなにするか等,いろいろな思いを込めて付けました。自分の名前の候補だった名前をつけた生徒もいました。
「零(ぜろ)」という名前をつけた生徒は「零(ぜろ)と聞くと0という数字を思い出して何もないような感じになるかもしれないが,私は何もないからこそスタート地点に立っていてどこにでも行けると考えています。ぜろという響きが好きです」と紹介しました。
「花(はな)」という名前をつけた生徒は「どんな天気でも力強く地に支えられ食に困らない花自体が可愛がられる。花にはいろいろな意味があり様々な場面で使われ人々を笑顔にさせるから」と紹介しました。
その後赤ちゃんを自分の手から離したときの気持ちをワークシートに記入しました。ファシリテーターが「お互いにコミュニケーションをとりながら書いたことを伝え合って」と声掛けをし,交流が終わったグループは手を挙げて示すように指示しました。
「卵をかご(幼稚園)に入れましょう。手離すとき,どんな気持ちでしたか」という問いでは「割れないように傷つかないように注意して入れました。手離すときにまだ冷たかったからもう少し温めたくなりました」「少し寂しかったです」「がんばれ」といった意見が出て,ファシリテーターが全体に紹介していきました。
「他の人の卵を回しているとき,どう感じましたか。自分の卵を他の人が回しているとき,どう感じましたか。自分の卵が戻ってきたとき,どう感じましたか」という問いでは「他の人の卵を見て可愛いなと思いました。絶対に落とさないようにしないといけないという責任感も生まれました。また自分の卵も絶対に落とさないでねという気持ちでした」「いろいろな卵(赤ちゃん)と出会い,自分の卵が戻ってきたときはほっとした」という意見がありました。
最後の「自分の親(保護者)に対して,どう思いましたか」という問いでは,ファシリテーターが「17,18年間育ててもらってきた中で今ふっと親に対してどう思うか,そういったところをまとめてください」と補足し,しばらくして「まだ途中の人もいると思いますが,自分の中でキーワードになると思うことを拾ってどんどん付箋に書いてください」と声を掛けました。
生徒たちは意見を付箋に出し合い,似ているもので分け,マジックでカテゴリ名を書いていき,最後に発表しました。
ここまで育ててくれた親をすごいと思う気持ちや感謝の気持ちがたくさん出てきました。
・今まで赤ちゃんのベッドといっても,何も考えず,とりあえず売っていて良さそうなものを買ってるのかなと思っていたけど,お母さんたちは赤ちゃんのことを考えながら,いかに寝やすくできるかとかを考えながら,ベッド選びやベッド作りをしているのかなと思いました。
・この学習を通して,人それぞれの価値観や,親になることへの責任感を疑似体験ながらも感じました。また自分の親への尊敬や感謝の気持ちがより一層強くなりました。
・今回ベッドを作るだけだったけれど,それでもすごく大変でした。本当の子育てはもっと大変だと思うので,子供一人を育てるのも簡単ではなく,覚悟がいるということが分かりました。
・親の気持ちが分かった気がしました。家に帰って来るまで,無事帰って来るかなど,心配してくれているんだなと思いました。感謝の気持ちが増えました。
・赤ちゃんのベッドは今年度も愛情をかけ寒い時期に合わせ温かい素材や毛糸で編んだものが多かったです。例年には無いものとして幼少期に自分が使っていた弁当箱を使ったもの,卵の中身に針穴くらいの小さな穴を開け空にしてきた生徒がいたので尋ねると「母が穴を開け中身を吸って出してくれた」など親子で課題に取り組み,改めて親の愛情に触れた生徒もいました。また,命名に込めた思いを全員が文章化し,予想以上に親の疑似体験ができました。
・実施前(自宅)の『事前課題:ワークシートを使って赤ちゃんのベッド作り』では母性の芽生えにより親のイメージ化を図り,実施後(授業)の『実施課題:親プロ1番ワークシートを使ってグループワーク』により他者と意見交換することで親の思いや責任の重さの理解の一助につながりました。
講師指導案 (Wordファイル)(43KB)
表1 後天的な学習による戸手高生の母性の発達 (Wordファイル)(29KB)