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生涯学習振興行政の基本的な考え方

 平成20年2月の中央教育審議会答申において,今後の生涯学習を振興していくための方策についての基本的な方向が示されました。生涯学習振興の課題は多岐にわたり,その課題も社会の変化に対応して激しく変化するため,長期にわたって同じ施策を続けることは困難な場合も多くみられます。そのため,施策を立てる際の視点をしっかり立てることが重要です。

施策の方向性を考える視点

1 「個人の要望」と「社会の要請」のバランスを確保する視点

 個人が充実した人生を送ることや,人間的なつながりを育むことと,地域社会の構成員として責任を果たすこと,職業能力等の向上により社会の経済的発展を図ることの調和を図りながら施策を立てる必要があります。

2 「継承」と「創造」等を通じた持続可能な社会の発展を目指す視点

 これからますます知識の重要性が増す社会にあって,蓄積された知識や経験が継承され,それらを使ってさらに新たな創造や工夫を行い,社会が発展していくために,学習で得られた知識等が社会の中で循環し,学習成果が社会に還元される仕組みが必要です。

3 連携・ネットワークを構築して施策を推進する視点

 生涯学習振興は,安定的に制度化されたシステムではないので,それぞれの資源に着目し,連携するメンバー相互にメリットがあるようなネットワークを構築することが大切です。

生涯学習振興行政の独自領域

1 生涯学習社会の実現を目指した生涯学習の機会の整備のための施策

 学習情報提供や学習者のための相談体制を整備すること,潜在的な学習需要を含む,学習意欲を高めるための啓発活動を行うこと,関係行政機関などが取り組む各種施策に関して連絡調整を図る体制を整備することなど。

2 生涯学習の成果を適切に生かすことのできる社会の実現のための施策

 学習成果を生かす場や成果を生かすための評価制度を構築することなど,生涯学習振興行政が,他行政から独立して成り立つ独自領域です。広範な生涯学習事業をも視野に入れた広義の生涯学習振興行政にあっては,社会教育行政がその中核的な役割を担うことが期待されるという,従来からの考え方に変わりはありません。

生涯学習政策の流れ

生涯学習政策の確立まで

国際社会に「生涯教育」ということばが広まったのはユネスコ教育局のポール・ラングランが1965年に提唱してからですが,日本でもその後,昭和40年代に出された社教審答申・中教審答申などを通じて生涯教育という考え方が世に出され,「生涯教育」から「生涯学習」という用語に変化しながら政策として確立されてきています。

昭和46年 中教審答申で「学校中心の教育観にとらわれず,一生を通じての教育という観点が重要」との考え方が示されました。
昭和56年 中教審答申「生涯教育について」 生涯教育の観点から,家庭教育,学校教育,社会教育を総合的に捉える必要性に言及されました。
昭和59年~62年 臨教審から,学歴社会の弊害を是正するために生涯学習体系への移行が提言されました。
昭和63年 文部省内に生涯学習局発足(平成13年に生涯学習政策局に改編)
平成 2年 生涯学習振興法が制定され,生涯学習審議会が設置されました。(平成13年に中教審の分科会に改編)
昭和から平成に移行するころから,生涯学習の推進は,理念を唱える段階から施策を進める段階に移行し始めました。

生涯学習政策の展開

生涯学習政策は,主につぎのような重点テーマで展開されてきています。

  1. 自己実現の支援
  2. 社会に役立つ学習
  3. 行政改革
  4. 青少年の育成のための支援
  5. 幅広い学習機会提供

平成 4 生涯学習審議会の初めての答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」において,生涯学習社会を定義し,当面重点をおいて取り組むべき課題が挙げられました。

  1. 社会人を対象としたリカレント教育の推進 
  2. ボランティア活動の推進
  3. 青少年の学校外活動の充実
  4. 現代的課題に対する学習機会充実

平成 8 生涯学習審議会答申「地域における生涯学習機会の充実方策について」
地域における学習機会を拡充するために必要な改善方策に関しての提言が出されました。

  • 地域に根ざした学校(学校が適切に教育活動を展開するには,家庭,地域社会との密接な連携が不可欠である。)
  • 地域社会の教育力の活用(学校に対する地域社会の支援拡充のためには,学校側からの情報提供を通じて課題を共有し,協力を求めることが必要。)
  • 地域社会への貢献(学校は子どもたちの教育の場だけでなく,地域社会の貴重な学習の場でもある。)

平成10 生涯学習審議会答申「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」

平成11 生涯学習審議会答申「学習の成果を幅広く生かす―生涯学習の成果を生かすための方策について」
生涯のいつでもチャレンジ可能な新し社会の創造に向けて,生涯学習の成果を生かすための方策を提言

  • キャリア開発
  • ボランティア活動
  • 地域社会での活動

平成12 生涯学習審議会答申「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について~情報化で広がる生涯学習の展望~」新しい情報通信技術を用いた生涯学習施策全般のあり方について示されました。

平成13 生涯学習審議会→中央教育審議会「生涯学習分科会」

平成14 中央教育審議会答申「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」個人の豊かな人生と新たな「公共」による社会を目指して取り組むべき方策が示されました。

  • 初等中等教育段階の青少年の学校内外における奉仕活動・体験活動の推進
  • 18歳以降の個人が行う奉仕活動当の奨励・支援
  • 奉仕活動,体験活動を推進する社会的仕組みの整備と機運の醸成

平成18 教育基本法の改正

平成20 中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」

今後の課題

今後の生涯学習に関する行政や社会の課題については,つぎのようなものがあげられます。

  • 公共の課題に関する学習の促進
    公共的な事業を行政だけが行う時代は終わり,住民が地域づくりの活動を通じて公共性を担う活動に取り組むことが当たり前となってきました。これらに役立つ学習の場や,学習成果を公共性の高い活動で生かすための仕組みを整えることが必要です。
  • 学校・家庭・地域をつなぐ
    家族や地域の絆が希薄になっている現代では,生涯を通じての学習の基礎となる子ども時代に充実した学びの実現のために,学校・家庭・地域が連携・協力することが重要です。
  • 学習活動を支援する人材の育成
    地域と学習者に密着した支援を行う人材や,学校・家庭・地域,そのほかの関係者による相互の連携・協力を積的に行っていくためのコーディネーターの養成が必要です。

参考資料:

  • 『生涯学習概論ハンドブック』 国立教育政策研究所社会教育実践研究センター
  • 『生涯学習論』 山本恒夫ほか編
  • 『テキスト生涯学習』 田中雅文ほか著
  • 『生涯学習の支援論』シリーズ生涯学習社会における社会教育5 鈴木眞理 ほか編
  • 『行政関係者のための新訂 入門・生涯学習政策』 岡本薫
  • 生涯学習研究e事典
     社会教育と生涯学習支援 山本恒夫
     生涯学習パスポートと学習成果の認証 今野雅裕
     東広島市における生涯学習キャンパスの推進 荒谷信子
  • 『広島県教育委員会六十年の歩み』 広島県教育委員会編

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