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広島県では、これからの働き方改革は、「働きやすさ」の整備に加えて、従業員が「働きがい」をもって意欲的・自律的に働ける職場環境づくりに取り組むことだと考えています。
「働きやすさ」と「働きがい」の両方を実現する取組は、従業員一人ひとりの能力の最大化を促し、その総和として全従業員が活躍する組織づくりが実現します。全従業員が活躍する組織づくりを通して、業績・企業価値の向上、ひいては持続的な企業成長に結びつけていくことが、企業にとってのこれからの働き方改革に取り組む意義と言えます。
図1 働き方改革の方向性(広島県モデル)
「働きがい」は画一的なものではなく、一人ひとりで感じ方や受け止め方が異なるものであり、決まった定義などはありませんが、広島県では「働きやすさ」と「働きがい」のある状態を以下のように考えています。
「働きやすさ」と「働きがい」の違いを考える時に参考になるのが、ハーズバーグの「二要因理論(動機付け理論)」とマズローの「欲求5段階説(自己実現理論)」です。
ハーズバーグの二要因理論では、仕事に対する満足をもたらす要因を「動機付け要因」、不満をもたらす要因を「衛生要因」に分けています。「動機付け要因」に分類されるのは、仕事の達成感や責任範囲の拡大、能力向上や自己成長、チャレンジングな仕事などで、動機付け要因はあればあるほど満足が高まり、やる気やモチベーションの向上につながるとされています。一方、「衛生要因」に分類されるのは、会社の方針や管理方法、労働環境、給与・時間・役職などの作業条件等で、衛生要因は従業員の不満を解消するために必要ですが、それ自体が必ずしも従業員の満足につながるものではないといいます。
従来からの働き方改革の主要テーマは、長時間労働の削減や休暇の取得など「働きやすさ」に関連するものが中心となってきました。これらの取組テーマをハーズバーグの二要因理論に照らすと、主に「衛生要因」を満たしていく取組に該当すると言えるのではないでしょうか。
このことから、「働きやすさ」の整備が中心の従来からの働き方改革に取り組むだけでは、不満足につながる要因を取り除くことはできても、従業員の内発的なモチベーションを刺激する「動機づけ要因」を満たしていくことは難しいということになります。
また、マズローの欲求5段階説では、人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5段階に区分しています。これら5つの欲求にはピラミッド状の序列があり、低次の欲求が満たされるごとに、もう1つ上の欲求を持つようになるというものです。
これに照らすと、「働きやすさ」の整備は主に「生理的欲求」「安全の欲求」を満たしていくもので、「働きがい」の向上は「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」に関連が強いものと言えます。
これら2つの理論から、「全従業員のパフォーマンスの最大化」を目指す「これからの働き方改革」は、「働きやすさ」の整備と「働きがい」の向上の両方の取組からアプローチしていくことが必要であることが示唆されます。
図2 ハーズバーグの「二要因理論(動機付け理論)」とマズローの「欲求5段階説(自己実現理論)」と働き方改革
「働きがい」に関する調査・分析を行う専門機関の調査や国や広島県が行った企業アンケート結果からも、「働きがい」と様々な経営上の発現に、相関関係があることが分かっています。
Great Place to Work(R) Institute Japan(GPTW)による「働きがいのある会社」に関する調査では、図3右上の4つのタイプの職場について、該当する企業群の売上の伸びを比較しています。
調査の結果を見ると、「働きやすさ」と「やりがい」を兼ね備えた職場(いきいき職場)は、その他の会社に比べて売り上げの対前年伸び率が高い傾向があることが分かります。
図3 4つの職場タイプごとの売上の対前年比伸び率
また、「やりがい」か「働きやすさ」のどちらかが低い職場を比べると、「やりがい」の低い職場(ぬるま湯職場)の方が、「働きやすさ」が低い職場(ばりばり職場)よりも顕著に売り上げの伸び率が低いことが分かりました。
更に、「やりがい」の低い職場(ぬるま湯職場としょんぼり職場)は、「働きやすさ」の高低による売上の伸びにほとんど差異が見られませんでした。
したがって、売り上げの伸びに対しては、「やりがい」がより重要な影響を及ぼす可能性があると言えます。
同時に、「やりがい」のみ高い会社(ばりばり職場)と、「やりがい」と「働きやすさ」の双方を兼ね備えた会社(いきいき職場)の間にも、大きな伸び率の差が見られました。
このことからも「働きやすさ」と「やりがい」の双方を備えることが、企業の業績をより高める上では重要と言えるのではないでしょうか。
広島県が広島県働き方改革実践企業(認定企業)に対して行ったアンケート調査でも、従業員の「働きがい」向上に向けた取組の実施と経営上のメリットの発現についての関係性が示されています。
この調査によると、「働きがいの向上に資する取組」を実施している企業のうち、経営上の効果や成果を感じている企業は7割以上という結果が得られました(図4)。
図4 働きがい向上に資する取組を実施して効果や成果を感じている企業の割合
更に、経営上の効果や成果を細かく見ていくと、「3年前と比較した経常利益」「生産性の向上」「従業員の定着状況」「新卒・中途採用の充足状況」のいずれにおいても、働きがい向上に「取り組んでいる企業」の方が「取り組んでいない企業」よりも、取組による成果や効果を感じている割合が高いことが示されています(図5)。
図5 働きがい向上に資する取組がある企業とない企業との比較
このような調査結果から、「働きがい」の向上の取組は、人材確保や生産性向上などの経営上のメリットの発現を加速させる可能性があると考えられます。
「働きがい」が求められる背景には、企業を取り巻く外部環境の変化があります。それを示しているのが図6です。
日本において少子高齢化の進行に伴う労働人口の減少は避けられないものであり、既に労働力の確保は企業にとって喫緊の課題となっています。また、近年の社会経済環境の変化やテクノロジーの発展に伴いビジネス環境も急激に変化しています。
更に昨今では、自然災害の発生や新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大といった予測が難しくかつ社会が大きく揺れ動く事象も断続的に発生するという、まさにVUCAの時代となっています。
このような環境下においては、予測不能な様々な変化に対して柔軟かつ迅速に対応できる力、すなわち組織としての「レジリエンス」を高めていくことが、企業の生き残りと持続的成長のための重要な課題です。そしてこの「レジリエンス」は従業員一人ひとりの意欲的かつ自律的な行動が重要なカギを握っています。
このことから、「働きがい」を高めて従業員の自律・主体的な行動を促し、「全従業員の能力の最大化する組織づくり」を目指す働き方改革は、企業のレジリエンス向上にも有効な取組でもあると言えるでしょう。
図6 働き方改革の背景にある外部環境の変化(PEST+N)
各種調査からからも示唆されているとおり、これからの働き方改革は「働きやすさ」と「働きがい」の向上の両方に取り組むことが重要です。
図7では、職場環境を「働きやすさ」×「働きがい」の4つの職場タイプで整理しています。
まずは、自社の現状が図7のどこに位置するのかを客観的に把握し、「働きやすさ」と「働きがい」を共に備えている「真の働きがいのある職場」を目指すことが大切です。
図7 「働きやすさ」×「働きがい」 4つの職場タイプ
広島県の県内企業では「働きやすさ」の整備の取組が着実に進んでいるという現状(⇒これまでの働き方改革の取組状況)があります。
このことから、県内企業においては、まずは「働きやすさ」を整備した上で「働きがい」の向上に取り組んでいくことが、これからの働き方改革の進め方の一つ(ロールモデル)だと考えられます。
図8 4つの職場タイプと広島県内企業のアプローチ
個人にとっての「働きがい」は、一人ひとり受け止め方が異なるもの。あくまで個人の内面から自発的に生まれるものであり「働きがいのある会社」の定義はそれぞれです。 一方、企業の観点から見れば、「働きがいのある会社」とは「全従業員が活躍する組織」を指します。
下図9は広島県が考える「働きがいのある会社(全従業員が活躍する組織)」をモデル化したものです。
このモデルにあるように、従業員の「働きがい」は組織からの働きかけで高めることができると考えています。
図9 「働きがいのある会社」(全従業員が活躍する組織)モデル
では、従業員の「働きがい」はどういったものから生まれるのでしょうか?その答えは、以下の5つの心理的要素にあると考えています。
これら5つの心理的要素を戦略的に構築するため、企業は組織として以下の3つの区分で働きかけていくことが必要です。
そして、その働きかけを
させることが、従業員の働きがいを高めていく上で重要かつ効果的です。
広島県では、働きがいを高める従業員の心理的5要素を下図10のとおりと考えています。
図10 従業員の働きがいを高める心理的5要素
制度や仕組みの整備・構築(ハード)は、働き方改革に取り組む上での基本であり重要な取組です。
広島県では、制度づくりの具体的なアクションを、「組織管理・業務管理」「評価処遇」「人材育成」「円滑な人間関係」「安全衛生」の5つで分類しています。
自社の目指す姿や課題に照らし、従業員の「働きがい」を高める心理的要素も意識しながら、必要な制度や仕組みの導入や見直しを検討してください。
組織の制度づくり(ハード)による打ち手・施策を、従業員の「働きがい」向上に確実につなげるためには、現場の管理職やリーダー(以下、「マネジメント担当者」という。)による従業員への働きかけ、つまり効果的なマネジメントの発揮(ソフト)が重要です。言い換えると、制度づくりにいくら取り組んでも、効果的なマネジメントが発揮されていなければ、その制度づくりの効果は十分に発揮されない可能性があるということです。
広島県では、効果的なマネジメントの取組を、実行主体ごとに大きく2つに分類しています。
1つ目は、組織が主体となって行うもので、具体的には、マネジメント担当者の「有効なリーダーシップ」と「適切なコミュニケーション」の2つの能力・スキルの育成を支援する取組(「マネジメント機能の強化」)です。
2つ目は、マネジメント担当者が主体となって部下やメンバーに対し行うもので、「信頼の構築」「価値観の共有」「自己実現の支援」のマネジメント機能を発揮する取組(「マネジメントの日々の発揮」)です。
企業文化とは、社内の風土や雰囲気、職場の文化のことを指します。「働きがい」向上との関係では、「従業員が会社を変えていくことが当たり前の風土」「皆が新しいことに挑戦的な雰囲気」づくりを指します。
この企業文化は、制度づくり(ハード)と効果的なマネジメント(ソフト)の取組によって醸成されていく従業員の意識の総和と考えることもできるでしょう。
一朝一夕では変化が生まれない企業文化ですが、一度形成されると働きがいのある会社づくりに向けて強い推進力を持ちます。このため、組織から従業員に対してハードとソフトの両方から、継続的かつ地道に働きかけていくことが重要です。
「働きがい」を高める取組を進めるには、まずは経営者が従業員の働きがい向上の必要性や重要性を腹落ちして理解していることが必要です。
働きがいを高める具体的な取組は、どれも、企業の資本である「人材」を活かすという意味で、経営の中核に触れる取組です。ですから、それらの取組を経営理念や経営戦略に連動させてと推進することは、必要不可欠であり、また、取組の成果や効果につなげるカギを握ります。
取組を現場任せにしてしまうと解決策が部分最適に留まってしまうことがありますので、これに留意しながら、大きな効果や成果につなげるため、経営者が強い意志を持ち、改革の本気度を従業員に示すことが非常に重要です。
図11 組織からの働きかけ3区分と具体的なアクション(全体像) (その他のファイル)(405KB)
※このページの情報は、2022年3月時点のものとなります。