「働き方改革先進企業経営者ミーティングHIROSHIMA」(第2回)を令和3年11月9日に合人社ウェンディひと・まちプラザにて開催し、広島県働き方改革実践企業(認定企業)の経営者層29名にご参加いただきました。
毎年進化するカゴメの“生き方改革”とこれからの人事制度の在り方 ~Withコロナ時代へのあるべき対応と経営に資する人材の育成~
講演は、カゴメの考える「生き方改革」の説明から始まりました。『働き方改革で労働生産性を高めるというのは、あくまで会社側の論理であり、個人にとってはQOL向上のための「暮らし方改革」が重要だ。したがって、カゴメでは働き方改革と暮らし方改革を合わせて「生き方改革」と呼んでいる。』と説明がありました。
こうした考え方のもとになったのが、海外のCEOやマネージャーとのやりとり。彼らに日本の単身赴任の話をすると「それは何かのパニッシュメント(処罰)なのか?なぜ会社の都合で家族が引き裂かれなければいけないのか?」と言われたそう。それを聞いて、日本の特殊さを感じるとともに、そもそも家族と暮らすかどうかは会社ではなく本人が決めるべきことだと気づかされ、こうした海外経験を通じて、会社で使い過ぎていた時間を個人の時間に振り向け、より充実した人生を送ってもらう必要性を痛感したそうです。
併せて、「時短で空いた時間は自己研鑽に使ってくださいという会社も多いが、それでは業務命令になってしまう。本来、時間の使い方は個人の自由だ。個人で使える時間は、趣味・育児・家族との時間など、何に使っても良い」とカゴメの生き方改革の考え方を示されました。
”強いカゴメ”の実現に向けた経営戦略としての「生き方改革」
有沢氏は、こうした生き方改革の目的を『すべての従業員にこの会社で働きたいと思ってもらうこと、つまり、ダイバーシティを推進させ、多様な従業員のエンゲージメントを高めることによって「選ばれる会社」になることにある』と説明されました。カゴメでは「生き方改革」によるエンゲージメント向上こそ、持続的に成長できる“強いカゴメ”を創るための最も重要な経営戦略と考え、様々な人事制度改革に着手されたといいます。
こうした人事制度改革のベースになっている考え方は「働き方の制約を極力少なくし、働き方のオプションをできるだけ個人に多く持たせ、個人の価値観に基づいて決めてもらうようにすること」、つまり社員のキャリア自律を支援することにあるといいます。そして現在、この考え方に基づいて「スケジューラ―の活用」「スーパーフレックス」「地域カード」「テレワーク」「副業」「専門職コース」といった多様な制度や仕組みを整備されています。
また、改革推進のポイントについて『制度や仕組みの整備といった「ハード面」だけでなく、相互理解・尊重の土壌づくりといった「ソフト面」にも同時に取り組むことが欠かせない』と説明されました。そして、人事制度改革が進んだ先には、透明性・公開性・心理的安全性が担保され、最終的には「キャリアを個人が決定できること」「会社と個人がフェアで対等な関係となること」が実現できるとお話しされました。
人的資本への適正な投資を実現するジョブ型人事制度の導入
次に、「ジョブ型人事制度」について紹介がありました。現在カゴメでは、役員から課長級までジョブ型人事制度が導入されています。ジョブ型人事制度とは、分かりやすくいうと「人にお金を払うのではなく、仕事にお金を払う」ことを目的としており、経営戦略と人事戦略を連動させるために、カゴメに最も適した仕組みとして導入された制度です。年功・職能型から職務(ジョブ)型の等級制度へと移行することで、より業績・評価に連動した報酬体系に制度改革することが可能になったといいます。
「人材とは資本であり、人にかかるお金はコストではなく投資(インヴェスト)。ジョブ型導入の目的は、年功序列を是正し、資本である人材に対しての投資を適正に配分することだ」とし、仕事の内容や評価に応じて本来もらわなければならない人にしっかり支払うことが、社員の納得感を醸成し、健全な競争意識やモチベーションを高めるとお話しされました。
こうした制度改革において、最も大切なのは「経営トップから変わる」ことだといいます。カゴメでは、まず初めに社長や役員から職務等級・評価報酬制度に変更し、社長・役員の固定・変動報酬の割合を変動報酬寄りに大きく変更されました。この役員の新たな固定・変動報酬の比率とともに、社長についてはその報酬の実額も社内報で公開。すると社員から驚きとともに「カゴメが変わった」と実感する声が上がってきたそうです。
このように「トップから変わる」ということをオープンに発信することが、改革を成功に導くカギになると示唆され、併せて『改革できるかは、企業の規模の大小や、地方かどうかなどに関係ない。「やるか・やらないか」だ』として、経営トップの改革に対する理解と決断の重要性を強調されました。
経営者は勇気と覚悟をもって変革を!
その他にも、年々進化を遂げるカゴメの取組として「ジョブ型の評価・報酬制度」「次世代経営者育成(サクセッション・プラン)」「HRBP(HRビジネスパートナー)機能」といった各制度施策のスキームが惜しみなく紹介されました。
そして、最後は、有沢氏から「会社の変革は現場ではなく、経営者の皆さんの肩にかかっています。変えることによって、良い人材が得られるし、良い会社になれるし、収益も上がることは間違いない。勇気と覚悟をもって変革にチャレンジしてください」と参加経営者らに対する熱いエールをもって締めくくられました。
Q 新入社員などは、メンバーシップ型の方がなじみやすいと思いますが、カゴメでは全ての職務を職務等級と紐づけて、ジョブ型に移行されているのか?
A カゴメでは、担当職(非管理職)には職務等級を導入していません。いろいろな経験を積みたい若い人には職務の内容を規定してしまうと、その人の成長を阻害しかねないからです。
これは業種にもよる。例えば銀行のように、支店によって同じ職務でもまったく難易度が異なる場合は、担当職であってもジョブ型にした方がフェアです。しかし、製造業では横のつながりが多いので、担当職の業務の広がりを促進するためにもあえて入れません。HOYAの時も(担当職には)ジョブ型を入れていませんでした。個人的には一般的に担当職には職務等級を入れるべきではないと考えています。
Q 生き方改革のソフト面(相互理解、尊重の土壌づくり)の取組として何をされているのでしょうか?
A まず、主として女性活躍を促進するためにダイバーシティ推進室を作りました。取組の方針としては「性別に関係なく下駄は履かせないが、やったことはきちんと評価する」ということ。例えば、異業種交流会で刺激を受けた女性従業員はMBAを取得し、今は一番ジョブグレードの高い課長になっています。大切なのは、平等な仕組みを作ること。女性を優遇するではなく、女性も男性も平等に働ける職場を作るのが大原則です。
働き方改革コンサルタントの藤原 輝氏(株式会社ワーキンエージェント)による「働きがい向上の取組について」のミニ講義を挟んで行われた参加者同士の意見交換では、「働きがい向上のために、今後何ができるか」などをテーマに、働きがい向上につながる具体的な取組について話し合われ、各グループの代表からの発表で全体にもシェアされました。
意見交換の際には、特別講演講師の有沢氏もグループを回られ、参加者の質問への回答や各社での取組のヒントについて個別にお話しくださいました。
プログラムの最後に、参加者同士の交流会が行われました。限られた時間ではありましたが、オフライン(対面)という利点を生かして交流を深めていただきました。