7-3 出向命令を会社が一方的にできるか|労働相談Q&A
7-3 出向命令を会社が一方的にできるか
質問
会社から関連会社に出向してくれと言われましたが,労働条件が変わるのではないか心配です。応じなければならないでしょうか。
回答
<ポイント!>
- 出向を命じるには,労働契約,就業規則,労働協約などの根拠が必要です。
- 個別に労働者の同意までは必要とされていません。
- 業務上の必要性と比べて,労働者の被る不利益の方が大きいときは,権利の濫用とされる場合があります。
出向とは
出向(在籍出向)とは今までの会社との雇用関係を維持したまま,別の会社の指揮命令下に労務を提供する人事異動をいいます。これに対し今までの会社との雇用関係を終了させ,新たに別の会社と雇用関係を結ぶことを転籍(転籍出向)(「転籍命令の限界」の項を参照してください。)といいます。
労働者の個別的同意までは求められていない
判例によると,出向を命じるには,就業規則などに「業務上の必要があれば,出向を命ずる」旨の規定が必要とされていますが(日立電子事件・東京地判昭和41年3月31日),労働者の個別的同意までは求めていません。
しかしながら,出向は企業を超えた異動であり,企業内の異動にとどまる配転とは労働者に対する影響は大きく異なるのが普通です。そこで,最近の裁判例の中には,就業規則や労働協約などに上記のような出向に関する一般的規定があるだけでは足りず,
- 出向規程などにより出向についてのその内容(出向先での労働条件,出向期間など)が明らかにされており
- それに基づいて現に出向が行われているなどの事情が認められるとき
は,労働者の個別的同意を取りつけずとも,使用者は出向を命ずることができるとするものがでてきました。最高裁も最近の判決でこの趣旨の判断を示しましたので(新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件・最二小平成15年4月18日),現在ではこの立場が裁判例では有力と考えることができます。
なお,出向に業務上の必要性がなかったり(ゴールド・マリタイム事件・大阪高判平成2年7月26日),あっても労働者の被る不利益が著しく大きい(日本ステンレス事件・新潟地高田支判昭和61年10月31日ほか)などの場合には,権利濫用で無効とされることがあります。会社には労働者の不利益を軽減,回避するため,代償措置をとるなどの配慮が求められます。
こんな対応を!
就業規則等の根拠を確認した上で,出向先の労働条件,また復帰の際の条件をはっきりさせてもらいましょう。応じられない事情(労働条件や家庭の事情等)があれば,会社に伝え,どのような代償措置がとられるのかも含め,話し合いましょう。条件等は後のトラブルを防ぐためにも文書でもらっておくのがよいでしょう。
更に詳しく
権利の濫用について
最高裁は,今のところ,出向命令権の濫用については,その判断を示していませんが,配転命令権の濫用については,次のようにその考え方を示しています。
すなわち,配転命令が濫用となるかどうかは,配転命令の業務上の必要性と労働者の生活上の不利益とを比較衡量することによって判断するが,
- 業務上の必要性が存しない場合
- 不当な動機・目的からなされている場合
- 労働者が通常甘受すべき範囲を超える場合
のような特別の事情がない限り,配転は権利の濫用にはならないとしています(東亜ペイント事件・最二小判昭和61年7月14日)。
なお,単身赴任に伴う家庭生活上の不利益については,通常甘受すべき程度としています。
下級裁は,ほぼこの考え方にしたがって,出向に関する事件を処理していますので,参考にしてください。