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広島の日本酒造りを支える試験醸造

印刷用ページを表示する掲載日2024年12月24日

広島は日本三大銘醸地の一つであり、日本酒造りに不向きと言われた軟水を用いて独自の醸造技術を開発するなど、高度な醸造技術を保有しています。

広島の酒造りの歴史

広島の醸造技術は、先人たちの努力によって開発、改良が重ねられて今日に至ります。

醸造技術にイノベーションを起こした先人たち

三浦 仙三郎 (みうら せんざぶろう)

明治31年(1898年)に「改醸法実践録」を出版。
酒造りに適さないと言われていた軟水を克服、後の吟醸酒の誕生に繋がる。

佐竹 利市 (さたけ りいち)

佐竹製作所(現:株式会社サタケ)創業者。
日本初の動力精米機を開発したことによって、吟醸酒造りの品質向上に貢献。

橋爪 陽 (はしづめ きよし)

広島県工業試験場(現:食品工業技術センター)初代醸造部長、及び広島県醸造試験場初代場長。
醸造技術の改良や発展に貢献するとともに、人材育成に尽力。

木村 静彦 (きむら しずひこ)

賀茂鶴酒造株式会社の創設者。
三浦仙三郎が生み出した醸造技術を広めるため、醸造技術者養成所として西條酒造学校を創立。

酒造りと食品工業技術センター

当センターは、公設試験研究機関でも珍しい実規模の試験醸造設備を有しています。
また、清酒の製造免許(本免許)を有しており、公設試験研究機関で唯一、試験醸造酒を独自銘柄「明魂」として販売しています。

当センターの醸造部門の歴史は古く、大正7(1918)年に広島県工業試験場(広島市)に醸造部が設置され、初代醸造部長として橋爪陽氏が就任しています。
大正11(1922)年に広島県醸造試験場が設置され(昭和27(1952)年廃止)、翌大正12(1923)年4月から醸造試験及び種麹の製造頒布を開始します。
昭和3(1928)年に西条清酒醸造場(現:東広島市)が設置され、昭和50(1975)年に廃止されるまで醸造試験はここで行われました。
昭和50(1975)年以降は、食品工業試験場(広島市、現:食品工業技術センター)に設備を移転して醸造試験を実施しています。

大正12(1923)年から現在に至るまで、継続して県内酒造業界に対する技術支援や時代のニーズに即した醸造技術開発に努めています。

試験醸造について

醸造技術の開発は、県内企業や業界団体との情報交換を密にして業界全体のニーズを把握するとともに、世の中の最新の技術動向も踏まえながら開発目標を定めます。

醸造技術の場合、研究室レベル(数リットル規模)で小規模な試験醸造を繰り返すことで技術開発を行い、実規模(数百リットル規模)の試験醸造で開発した技術を実証します。

目的

試験醸造により、新たに開発した酒米や酵母の評価、酒米の生育状況の把握、人材育成などを行い、得られた成果は技術指導に活用されます。

酒米や酵母の評価

県で酒米や酵母の新品種開発を行う場合、育種の最終段階で試験醸造を行い、醸造適性や味覚を評価し、その結果を踏まえて品種選抜を行います。
国の機関や他県で新たな酒米や酵母が開発された場合、県内酒造業界の要望に基づき、醸造適性や味覚を評価します。
これらの目的で試験醸造した酒は、広島県酒造組合清酒製造技術専門委員会で試飲し、品種選抜の参考や各社の醸造に活用して頂きます。

酒米の生育状況把握

酒米は、毎年の気候条件により溶けやすさ等の品質が変動します。
このため、その年に収穫された酒米でいち早く試験醸造を行い、結果を県内酒造業界に提供します。

醸造技術の維持向上

当センターの職員が醸造実務を行うことで基盤的な技術を習得するとともに、新たな醸造技術の獲得も目指します。
また、県内酒造会社の人材育成のために、技術者を受入れる場合もあります。

試験醸造を行うメリット

県内の酒造会社の醸造タンクは、数千リットル規模です。
これに対して、センターの醸造設備は、その1/10程度の360リットル(パイロットスケール)で、製造現場に近い条件で試験醸造を行うことができます。

研究室レベルの醸造試験は、数リットル(ラボスケール)であり、数多くの試験を行うことができますが、この規模の試験結果をそのまま酒造会社の規模に適用することは困難です。
このため、ラボスケールで予備的試験を行い、パイロットスケールで実証的試験を行うことで、より適切な技術指導や情報提供が行えます。

試験醸造を行うメリット
食品工業技術センター 酒造会社
  • 再現性の高いデータが取得でき、また、研究成果が酒造りの現場に採用されやすい
  • 出来上がった試験醸造酒「明魂」は官能評価に活用できるため、酒造会社に研究成果を実感してもらいやすい
  • 実際に造ることで教科書以上に酒造りの基礎を学ぶことができ、指導に赴いた際、問題や課題に気付きやすくなるとともに、指導の説得力が増す
  • その年にできた米の作柄(米の溶け易さ、吸水のし易さ等)がわかる
  • 初めて使う米や酵母で、どんな酒ができるかわかる(開発のリスクを避けることができる)
  • 人材育成の場として、センターを利用できる(研究員受入制度)
  • センターが蓄積したデータを参考に、自社の酒造りへ活かせる

概要

試験醸造は、通常、酒米が収穫された年の10月から12月にかけて実施し、年明けから酒造会社への技術指導に活用します。
酒造会社に近い条件で実施するため、県内酒造会社から派遣された杜氏や蔵人とセンター職員が共同で醸造実務を行います。
原材料は精米された県内産酒米を購入します。酵母は当センターで培養します。仕込み水は、以前は比治山の地下水を使用していましたが、最近は水道水をろ過して使用しています。
試験区分数(仕込み本数)は、業務量や設備の規模等を踏まえ、毎年10本程度の仕込みを行います。従って、製成数量は、3,000リットル程度となります。

醸造中の写真1 醸造中の写真2 醸造中の写真3

試験醸造酒「明魂」

試験醸造で醸造した日本酒は、「明魂」という名称で、毎年10月頃に販売しています。

「明魂」の名称は、昭和4(1929)年に当時の県職員への公募により名付けられました。
酒豪として知られる作家の井伏鱒二氏が「明魂」に対して、
『口に含んだときは水のように淡く、飲みくだすときいい匂いと味が伝わって来る。すぐ顔のあたりが温かくなる。芳醇というのはまさにこんな趣のものではないか。』
と絶賛したとの逸話もあります(出典:自慢は泣くほど旨い酒、昭和27(1952)年7月1日読売新聞夕刊)。

醸造後に約1年間タンクで品質管理を徹底して保管した後に、瓶詰めして販売しています。
試験醸造は、技術開発や生育状況の把握のために行うので、試験ごとに原料米、精米歩合、酵母、種麹などが異なることから、毎年醸造した酒の味や香りが異なることが特徴です。

「明魂」を飲むことで、広島の酒造りにおける先人たちの努力や最新の酒造技術に思いをはせるとともに、広島の酒の未来を感じていただければ幸いです。

関連情報

開発した技術と、技術が活用された商品の紹介ページです。

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