(昭和四十八年七月六日)
広島県自然環境保全条例(昭和四十七年広島県条例第六十三号)第十二条によって,広島県自然環境保全基本方針を策定したので,つぎのとおり公表する。
広島県自然環境保全基本方針
一 指定方針
二 指定基準
三 保全方針
一 指定方針
二 指定基準
三 保全方針
一 自然公園の拡充整備
二 野生鳥獣の保護
三 森林の保護
四 都市およびその周辺地域の緑地の保護
五 文化財の保護
六 海浜,水面の保護
一 土地利用計画の策定
二 開発行為との調整
三 自然環境保全協定の締結
四 林業との調整五 公共事業等との調整
一 自然環境保全の普及啓発
二 自然保護団体の育成
三 県民運動の推進
四 自然環境の保全に関する調査研究
五 指導,監視体制の強化
六 県と市町村の連けい
七 財政措置
自然環境は,人間の健康で文化的な生活に不可欠のものであるが,ここ数年来,都市化,工業化の急激な進展に伴い公害問題の深刻化,自然環境の破壊といった生活環境の著しい悪化が進み,自然公園法等現行自然保護関係法制度のみでは自然環境の保全が困難となってきた。
このような現状にかんがみ,国においては,自然環境の適正な保全を総合的に進めるための新たな法制度として昭和四十七年六月自然環境保全法を制定した。
また,こうした自然環境の破壊は,本県においても例外ではなく,すみやかに自然環境の保全のための有効適切な施策を講ずることが緊要となってきたため,県は昭和四十六年十月に広島県自然保護審議会を設置し,当審議会に対し「広島県が講ずべき自然環境の保護に関する基本方策について」諮問し,翌年三月答申を得た。この答申と自然環境保全法に基づいて広島県自然環境保全条例を昭和四十七年十二月に制定し,翌年四月に施行した。
この広島県自然環境保全基本方針(以下「基本方針」という。)は,同条例第十二条の規定に基づき定めるものである。この基本方針は,自然環境の保全に関する基本構想,保全地域の指定,保全地域に係る保全施策に関する基本的事項等を定め,もって本県における自然環境の保全の方向を明確化し,この実現を強力に推進することにより,緑豊かな,住みよい郷土を確保せんとするものである。
自然は,人類をはじめとする生物すべての生存の基盤であり,人類はまた,この自然を離れては生存することはできない。
人類は,その出現以来,人類固有の知的活動を通じて自然をたくみに利用し,すぐれた文化を創造し,物質的にも豊かな人類社会の繁栄を築きあげてきた。
しかし,近時,化学技術は著しい発展を遂げたが,われわれは,この力を用いるにあたって複雑精密な自然の仕組みに対する理解がじゅうぶんでなく,自然に対し,節度のない破壊を行なうに至った。その結果,微妙な秩序をもつ自然界の均衡はくずされ,人類みずからの生存条件さえも著しく悪化しつつある。
本県における自然環境の悪化もまた,例外ではない。したがって,われわれは,自然が人類の生存にとっていかに重要な役割を果しているかを深く認識し,自然の法則性に対する正しい理解と謙虚な心をもって賢明に自然を利用することにより,現代に生きるわれわれの生活をより豊かなものにするとともに,過去幾百万年にわたってわれわれをはぐくんできた自然を人類の貴重な資産として後世に伝え,人類の永続的生存を確保しなければならない。
このような観点から,国,県,市町村はもとより,県民すべてが自然の尊さを強く自覚し,さらに自然の恵沢を永遠に享受できるよう,郷土の自然を愛し,守り,また緑豊かな自然環境の醸成に総力を結集しなければならない。
ここ数年来,無秩序な開発による自然破壊の異常な進行によって,人間生活を取り巻く自然環境は,全国的に大きな脅威にさらされるに至った。この点に関しては,本県もまた憂慮すべき状況にある。
本県の自然は,日本列島の典型ともいうべきで,全体に林野が多く平野が少ないという自然条件のほか,南は瀬戸内海沿岸,島しよ部から,北は中国山脈のせきりよう部に至るまで地勢,気候が変化に富み,動植物も多様で自然の美にも恵まれている。
これはまた,県民生活の向上のための源泉として,かけがえのない貴重な資産である。
しかしながら,近年の産業活動の活発化や都市地域への著しい人口集中は,過密,過疎という地域社会の急激な変動と自然環境の著しい改変をもたらした。
特に,このような都市化,工業化が平地の乏しい瀬戸内海沿岸部を中心に進展した結果,この地域では,景観美を誇っていた海岸は埋め立てられ,島は削られ,その様相を一変したところも多く,また,産業活動や都市生活に伴う大量の廃棄物により,大気,水等の汚染が進むなど,自然環境の悪化がきわめて顕著になっている。
また,都市周辺部では,大規模な宅地開発の進行により,緑はしだいに姿を消し,自然の景勝地にあっては,観光開発による俗化が進み,山間地においては,森林資源の開発によって貴重な原生林等が失われてきた。
このような自然環境の破壊の進行に伴い,野生鳥獣や魚類も重大な影響を受け,しだいに影をひそめようとしている。
今後,山陽新幹線,中国縦貫自動車道等の交通体系の整備を契機とする各種開発事業が無計画に行なわれるとすれば,さらに自然環境の破壊が全県的に急速に進むことが予想される。
自然環境の保全に関連する法制度としては,自然公園法,鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律,森林法による保安林制度,都市計画法における風致地区などの制度,文化財保護法による史跡,名勝,天然記念物の制度,公有水面埋立法などがあって,それぞれ部分的には,自然環境の保全が図られてきたが,これらの諸制度の個々の運用をもってしては,自然環境の保全の万全は期しがたいといわなければならない。
そこで,自然環境の保全に関する総合的かつ基本的な法制度としての自然環境保全法および広島県自然環境保全条例をもって,自然環境の破壊に通ずる各種行為の規制を図るとともに積極的に自然環境の回復を行なおうとするものである。
すなわち,自然環境保全法に基づく自然環境保全地域ならびに広島県自然環境保全条例に基づく県自然環境保全地域および緑地環境保全地域を指定し,その地域内における各種行為について許可制または届出制により規制し,あわせて所要の保全事業をも実施する。
また,県下全域において,宅地造成,ゴルフ場建設などの一定の行為については,必要に応じ,自然環境保全協定を締結し,自然環境の損壊の防止,植生の回復などに努める。
さらに,つぎの諸施策をあわせて実施し,自然環境の適正な保全を総合的に推進するものとする。
県自然環境保全地域は,自然公園の区域を除いた地域に設置することになる。
現在,本県における自然公園の面積は三四,四八〇ヘクタールであるが,これの県総面積に占める割合は四・〇八パーセントにすぎない。
このため自然公園の区域外にもその自然環境を保全する必要のある地域が広がっており,さらに保護すべき野生動植物も各所に存在している。
これらの地域を計画的に指定し保全を図ることとするが,当面,急激な開発が予想される地域における自然環境を重点的に指定の対象とする。
県自然環境保全地域は,つぎの基準によって選定する。
(一) 県自然環境保全地域における自然環境は,現在の県民だけでなく将来の県民も当然その恵沢を享受しなければならないものであるため,この地域は,将来にわたって自然の現状を維持することを目的として,つぎの区分によってその保全を図ることとする。
県自然環境保全地域のうち,すぐれた天然林,湿原野生動植物の生育,生息地等であって人工のあまり加わっていない地区または学術的に重要な区域を特別地区として指定し,この地区内における各種行為については,知事の許可を要することとし,一定の基準に適合しないものについては,許可をしないこととする。
特別地区内において,特に保護を必要とする野生動植物があるときは,その種類ごとに野生動植物保護地区を指定し,この地区内においては,野生動植物の捕獲または採取を禁止する。
特別地区以外の県自然環境保全地域を普通地区としこの区域内における各種行為については,知事に対して届出を要することとし,知事は,当該自然環境の保全のために必要な限度においてその届出にかかる行為を禁止し,制限し,または必要な措置をとることを命ずることができる。
(二) 県自然環境保全地域についてその適切な保全を行なうため,植生の復元施設,砂防施設,防火施設,給餌施設等の保全施設を設ける。
この地域は,県自然環境保全地域以外の区域で生活環境と密接な関連をもつ良好な自然環境の保全を図るために指定するものである。
このため,市街地およびその周辺地域における残された貴重な緑を保全するとともに,歴史的資産等を含む自然環境を指定の対象とするが,当面,都市化,工業化が急速に進んでいる瀬戸内海沿岸部における自然環境を重点的に指定の対象とする。
緑地環境保全地域は,自然的社会的諸条件からみて,その区域における自然環境を保全することが地域の住民の良好な生活環境の維持に資するもので,面積の大きさにかかわらず,つぎの区域に該当するものを選定する。
自然環境の保全に関連をもつ自然公園法,鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律,森林法,都市計画法,文化財保護法,公有水面埋立法等の運用にあたっては,自然環境保全の観点からその適正化を図る。
自然公園はすぐれた自然の風景地を保護するとともに,その適正な運用により,国民の保健,休養,教化に資するものであり,自然環境保全のうえで保全地域とともに中心的な役割を果たすものである。このため,自然公園法および県立自然公園条例に基づく自然公園の拡充整備を進めるとともに,自然環境の保全の観点から公園計画の再検討,規制措置の強化に努める。
自然環境の悪化に伴い,野生鳥獣は減少の一途をたどっている。このため,野生鳥獣の保護対策として鳥獣保護区の設定,特別保護地区の指定および狩猟鳥獣の捕獲禁止区域の設定を積極的に実施し,これらの区域の整備と保護思想の啓発に努める。
森林は,水源かん養,国土の保全などの公益的機能からして良好な自然環境を維持するうえで重要な役割を果たすものである。
そのため森林計画制度の運用にあたっては自然環境の保全に配慮するとともに,保安林の整備拡充および維持管理の強化に努める。
都市計画関連法令に基づき,無秩序な市街化の抑制,風致地区の指定の促進,公園,緑地の整備拡充および保存樹または保存林の指定を促進する。
自然と調和した歴史的環境を保存するとともに,学術的に貴重な動植物等を保護するため,史跡,名勝,天然記念物等の指定と管理の適正化に努める。
すぐれた景観,地形,動植物および野鳥などの生息環境を確保するため,海面,内水面など公有水面の現状変更を規制し保全をはかる。
保全地域の指定にあたっては,県立自然公園区域の指定と同様,何よりも土地所有者の協力が必要であるため,これらの地域に指定された土地の所有者に対して協力奨励金を交付し,その協力を得るよう努める。
また,保全地域における森林について,自然環境保全上立木竹の伐採に著しい制限を加えることとなる森林の区域にあっては,その伐採の方法限度に応じ,損失補償を行なう。
さらに,自然環境保全上,特に重要な地域または自然景観等がすぐれた地域について,私権との調整上,県が取得して保全を図る必要があるものについては,その公有化に努める。
無秩序な開発が自然環境の破壊をもたらしたことにかんがみ,県は,自然環境の保全と開発との調和を図るため,つぎの施策を行なう。
県域を通じて,適正かつ合理的な土地利用が図られるよう,総合的かつ長期的な土地利用計画を樹立する。
各種の開発行為については,土地利用計画に即しつつ,適切な土地利用を指導するとともに,その開発行為に関連する法令の運用にあたっては,自然環境の保全をじゅうぶんに配慮した節度ある開発が行なわれるよう指導することとする。
自然環境をそこなうおそれのある開発行為等で,つぎに掲げる行為を行なう者と,必要に応じて自然環境保全協定を締結し,無秩序な開発を防止するとともに植生の回復を図る。
森林は,良好な自然環境を維持するうえにおいて重要な役割を果たすものであることにかんがみ,森林のもつ公益的機能に重点を置く林業政策を樹立し,森林の効果的活用を図る。
行政計画の策定,公共事業等の実施にあたっては,あらかじめ,自然環境に及ぼす影響に関する調査を行ない,自然環境の保全にじゅうぶん配慮したうえで実施する。
すでに開発されている市街地およびその周辺地域における道路,河川,公園および学校等の公共施設について積極的に緑化を進めるとともに,一般家庭の緑化を指導奨励する。
とくに,工業地域については,工場敷地内の緑化とあわせ地域環境と適合するよう緩衡緑地の設置を促進する。
また,工場団地の造成にあたっては,あらかじめ,緑化計画の策定を指導する。
自然環境の保全は,単に法律や行政の力だけでは達成できるものではなく県民の自然愛護の精神が必要であることにかんがみ,つぎのような普及啓発活動を行なう。
ポスター,パンフレット,広報紙のほか,テレビ,新聞等の各種の広告媒体を通じて,広報活動を積極的に行なう。
学校教育および社会教育の場における自然保護に関する教育を充実し,その知識の普及啓発をはかることによって県民に広く自然愛護の観念をつちかうとともに,自然環境の保全に関する専門的な知識技術を付与するための研修会,講演会等を開催する。
地域住民の自主的な自然保護運動を促進するため,市町村などの協力を得て,自然保護団体の健全な育成を図る。
市町村および関係諸団体などとの緊密な連けいのもとに自然環境の保全に関する県民運動の推進を図る。
県内の自然環境の状態を的確には握するため,植生調査等の科学的な調査研究を推進する。
また,自然の復元を図るための緑化技術の開発を行なうものとする。
行政機関相互の連けいを緊密にし,情報の交換を行なうなど監視体制の充実強化に努める。
一方,自然保護取締員,自然公園監視員,自然公園指導員,保安林監視員,鳥獣保護員の制度の充実強化を図るとともに自然保護指導員の設置を検討する。
自然環境の保全に関する施策の推進にあたっては,県および市町村が密接な連けいを保ちながら,それぞれの立場でつぎのとおり実施する。
特に地域の実情に即したきめ細かい施策を推進するにあたり,市町村の役割はきわめて重要である。
ア 自然環境の保全に関する基本的指導および基準の策定
イ 自然環境の保全に関する全県的な施策の策定とその推進
ウ 市町村相互間の調整とその指導
ア 県の自然環境の保全に関する施策への協力
イ 市町村における自然環境の保全に関する施策の策定とその推進
ウ 市町村段階における関係機関との連けいと地域住民に対する啓発指導
県は,自然環境の保全に関する施策の実効を確保するため,その裏付けとなる財政措置についてじゅうぶん配慮を払うものとする。