【原文】(『菅波信道一代記』から)
時に翁の申事(もうすこと),水は方円其器,人は善悪友に寄る,誠なるかな此(これ)汝(そ)れか,なす誤の数々を,改むるにもはゞ(ば)からず,年来教えし功もあり,すなを(素直)成る哉(かな)其心,見込(みこみ)見留(みとめ)見上けたり。
【意訳】
ある時,茶山翁が言った。「水は器の形によって,四角にも丸にもなる。人は周囲の人々によって善くも悪くもなる。」
本当に茶山翁は,このような人だったなぁ。数々の間違いは,気付けばためらうことなく改め,長い間人を教えてきた功績もある。濁りのない,美しい心で,正しく判断し,真実を見抜く。本当に素晴らしい人だった。
※『菅波信道一代記(すがなみのぶみちいちだいき)』
茶山の弟子で,神辺本陣の主人であった菅波信道(1792~1868)が語ったことを書き残した本です。目録・巻之序・前編33巻・後編4巻からなっています。災害や事件に関する挿図や,酒造や酒販売のようすを伝える挿図などがあり,神辺宿周辺の風俗や日常生活の様子,当時の大きな出来事などが記録してあります。この本は,県の重要文化財に指定されています。