文書館の所蔵文書には,様々な原因により破損しているものが多数あります。文書の破損の状態や利用のニーズに即して補修が必要かどうかを判断し,その文書に適した補修の方法を選び,閲覧などの利用に支障がないようにして文書を保存することは,文書館の大事な仕事の一つです。
文書館では,文書はできるだけ元の形で保存していくのが望ましいという考えに基づき,保存と利用に支障がなければ,安易に文書の補修はしません。また,裏打ちなどの本格的な補修が必要な場合は,修復の専門家に依頼することにしています。
しかし,埃やカビなどで汚れた文書や,破損個所をセロハンテープなどで接着した文書,ホッチキスの針やクリップなど金属類で綴じられ,錆びの発生している文書などは,できる範囲で簡易な補修を行っています。
埃,すす,虫のふんや死骸などで汚れている文書は,刷毛を使って埃をはらいます。文書館では,はらった埃が飛散しないようヘパフィルター付きの集塵機(市販の掃除機を利用して作ったもの)を使用していますが,作業中は換気を十分行い,マスクなどを着用します。カビが発生している文書は,殺菌作用のあるエタノール(70%に薄めたもの)を柔らかな布に含ませて,カビの部分を押さえながらふき取ります。
【埃はらい】
竪継紙・切継紙などの文書で,継ぎ目がはがれてしまったものは,はがれた糊しろの部分に筆で糊をつけて貼り合わせます。
補修にはセロゲン(カルボキシメチルセルロース)や生麩糊(しょうふのり),添加物の入っていない市販のでんぷん糊などを薄めて使用します。
古文書や公文書などには,破損箇所を補修するためにセロハンテープや補修テープで貼り合せたものがありますが,テープの粘着剤は,年月とともに紙にダメージを与えるため,すみやかにはがします。
はがしにくい場合は,はがす箇所を少し水で湿らせ,文書にあて紙をして,アイロンの先で少しずつ熱を加え(温度は低温にする),粘着剤を柔らかくしてから,テープの端をピンセットで持ち上げて慎重にはがしていきます。
テープをはがしたあと,粘着剤が紙に残っている場合は,別の紙をあてて少しずつ粘着剤を吸着させて取り除きます。
セロハンテープや補修テープは,いったん貼ってしまうと,紙を傷めずにはがすのは困難なので,文書に使用することは絶対に避けましょう。
公文書などに使われているホッチキスの針・クリップ・ピンなど金属類は,紙を破りやすく,錆びて文書を汚損するばかりでなく,錆びによる周辺部分の酸化によって紙が破れてしまうこともあるので取り除きます。
ホッチキスの針や針金で綴じてある文書は,小さなニッパーなどで金具部分を起こして除去します。はずすときに不用意に押し広げると紙がちぎれてしまう場合があるので注意しましょう。
紙に錆びたクリップが付着している場合は,クリアファイルの小片など薄いフィルムをクリップと紙の間に両面から差し込み,クリップを押し出すようにすると,クリップが外れやすくなります。
はずしたあとは,元の穴を利用して,紙縒り(こより)や糸などで綴じ直します。綴じ穴のない文書は,ばらばらにならないよう,中性紙で作った封筒などに入れておきます。
《参考》
「文書館のしごと12 文書の補修1」 (『広島県立文書館だより』第32号 4頁)
「文書館のしごと13 文書の補修2」 (『広島県立文書館だより』第33号 6~7頁)
下向井祐子「広島県立文書館における文書の保存手当てについて」 (『広島県立文書館紀要』第11号 4 劣化した文書の簡易な補修)
PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe社が提供するAdobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。(無料)