古文書などの古い紙資料には,様々な害虫やカビなどが付いていることが少なくありません。これらを駆除するため,従来,文書館などの施設では,有毒ガスによる燻蒸を長く行ってきました。しかし,この有毒ガスにはオゾン層を破壊する物質が含まれていたため,平成17年以降その使用ができなくなりました。
この方法に代わり,近年では,地球環境や人体への影響にも配慮しつつ,文化財の性質や虫菌害の内容・程度に応じた処置を施すことが求めれるようになっています。このような虫菌害対策をIPM(Integrated Pest Management,総合的病害虫管理)と称しています。
広島県立文書館でも,有毒ガスに代わる方法として,このIPMの考え方を採り入れ,段階的な虫害チェックと新たな薬剤による燻蒸を行うようになりました。館外から古文書などを受入れた時は,次のような手順で書庫に搬入します。
1,まず,生きた虫がいないかどうか,目で確認します。 |
2,文書が入っている容器ごとに害虫チェック用の粘着トラップを仕掛け,1週間ほど様子を見ます。 |
3,文化財害虫の生存が確認された場合は,業者委託による二酸化炭素燻蒸を検討し,実施します。 |
4,生きた虫がいないか再度チェックし,いないことを確認した後,書庫へ搬入します。 |
《参考》
「文書館のしごと6 古文書類を汚損・劣化から守る」 (『広島県立文書館だより』第22号 4頁)
「文書館のしごと9 資料の虫害対策」 (『広島県立文書館だより』第28号 4頁)
勿論,このような対策を施してもなお,書庫内に害虫等が入り込むことは少なくありません。そのため,文書館では,日頃から,書庫内の状況を一定期間ごとに小まめに害虫チェックをしています。
また,書庫環境を一定に保つため,データロガーを用いた温湿度のチェックも定期的に行い,温湿度が上昇する夏場には,書庫内で除湿機を稼働させ,湿度を下げるよう努めています。
以上のような,地道で継続的な取り組みが,文書の保存環境を管理するうえで,とても重要です。
【書庫内に配置した害虫トラップ(左)と除湿機(右)】
当館でのIPMの具体的な取り組み内容については,以下をご参照ください。
下向井祐子「広島県立文書館における古文書の保存管理」(『広島県立文書館紀要』第10号,1 環境管理)
「広島県立文書館におけるIPMの取り組み」 (平成26年度 広文協第2回研修会 配付資料 〈 作成:下向井祐子 〉 )
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