スペシャルトークvol.2
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SPECIAL TALK(スペシャルトーク)
サミットを、もっと身近に
G7広島サミットについて、県民等の皆さんにもっとよく知ってもらうため、専門家2人のお話を3回に分けてご紹介します。
第2回目は、SDGsの理念やSDGsとサミットについてのお話です。
左:原 琴乃(はら ことの)外務省G7広島サミット事務局 総括次長/絵本作家
右:高瀬 淳一(たかせ じゅんいち)名古屋外国語大学・大学院教授/グローバル共生社会研究所長
SDGsの理念
原琴乃氏(以下、原):SDGsは、よく、世界の全ての国が合意した「未来ビジョン」という言い方をするのですが、2030年に向けてこういう未来をつくりたいというのを、国際社会が初めて決めたものだと思います。「サステナビリティ」とは、国連からやってきた難しい言葉と感じるかもしれませんが、実は、日本には昔から根付いている考え方。私たちが、代々受け継いできたこの地球を、どのように次世代に引き継いでいくのかを考える時に、同じ時代に生きる人たちだけでなく、未来の世代も含めて、誰一人取り残さず皆を思いやるという視点が非常に大事だと思います。SDGsの基本的な理念というのはそういうもの。そのため、社会と環境と経済をバランスよく統合的に進めながら成長しようという目標で、途上国、先進国に関わらず、全ての国が対象になっています。またアクターとしても、実現に当たって、イノベーションや共働が鍵ということもあり、国だけでなく、企業、市民団体、教育機関、地方自治体など、様々なステークホルダーの知恵と参加が重要になります。
また、SDGsで掲げた目標の一つひとつは、教育、保健や男女平等など、昔から存在しているものもかなりあります。新しいのは、むしろ、これら目標に対するアプローチだと思っています。例えば、テロが起こる原因が貧困であり、テロが起きた結果として多くの難民が生まれたり、更に貧困が悪化したりといったこと。あるいは、気候変動によって自然災害が激しくなり、感染症も広がっていくという話がありますね。このように、いろいろな課題が相互に絡み合っているので、ある一つの課題を解決すればそれでいいというわけではありません。連鎖する課題について、世界中のみんながつながり合って、知恵を出し合って、自分事としてやっていきましょうというところが、特に新しいアプローチかなと思っています。
SDGsとサミット
高瀬淳一氏(以下、高瀬):サミットの良いところは、毎年開催するところ。各国首脳が毎年会うとなると、去年約束したことはどうなっているか、という話になりますよね。私は「宿題の提出日」と呼んでいます。首脳たちが決めると、各官庁は動かざるを得ないし、そうした意味でも各国内で強制力が働きます。ただし、急に100%変わるというわけにはいかないので、環境問題や貧困対策、途上国支援、最近で言うとジェンダーの話題など、そういうものも毎年取り上げるようにしています。テーマも自由に変えられるので、とりあえずは今年取り組むことを議長が決めて、少しずつ政策協調を進めて、実行力を上げるための努力をしていくということ。SDGsのように幅広い分野にまたがるものは、サミットのシステムにふさわしいと思っています。
原:SDGsは全ての省庁に関係するので、日本政府のSDGsの司令塔「SDGs推進本部」は、全ての省庁で構成されています。首脳だからこそ、省庁横断的なテーマを扱えるという強みがあり、そういう意味でも、サミットでSDGsを取り上げることの意義があると思いますし、実際にも取り上げられてきています。その中で、関係閣僚会合がサミット前後で行われますので、先に開催された会合の結果を吸い上げて、首脳会議で後押ししたり、後に行われる閣僚会合に対して指示を出すという、一つのサミットが、SDGsの様々な課題をまとめあげるコアにもなっていると感じます。
高瀬:市民を巻き込んでいることも特徴の一つですよね。最近、特に顕著なんですけど、サミット自体のシステムとは全く別に、市民社会からの参加、いわゆるエンゲージメントグループというのがあります。例えば、各国の女性団体の意見集約を行う「W7」、それから若者たちの意見を集約する「Y7」、学者の世界では「T7」など、色々な市民セクターの人たちが、7か国の代表を集めて議論して、首脳に提言をするという動きがある。市民社会運動を行っている「C7」も同様。若者に問いかければ、当然、日本の未来だけじゃなく、世界の未来のことを考えて、地球環境や貧困の問題について意見を出しますので、それが議論され、政策に反映されていく、あるいは政策を変更する原動力になるということも含めて、サミットのメカニズムというふうに言えますね。議長国からの呼びかけで、例えば各国から男女2人ずつ中高生に参加してもらって、様々なテーマについて議論してもらうというイベントも行われることが恒例なんですよ。
原:幸いなことに、あるいは運命的なことに、日本でサミットが開催される年は、SDGsにとって重要な年ばかりなんです。例えば、伊勢志摩サミットが開催された2016年は、SDGsの実施元年で、首脳としてSDGsを頑張っていこうという力強いコミットメントを出しています。次に、G20大阪サミットが開催された2019年は、国連で初めて、4年に1回の首脳級のSDGsフォローアップ会合が開催されました。そして、広島サミットの開催を迎える2023年は、国連で2回目の首脳級のSDGsサミットが開催される予定であり、これまた重要なマイルストーンの年に当たるわけです。さらに、日本で次にサミットが開催されるのが7年後の2030年ということになれば、今度はSDGsの達成年に設定された年に当たります。日本は、常に、SDGs推進においてリーダーシップを発揮することを期待され、発揮していける機会にも巡り合うという・・・縁と責任を感じます。
SDGsと私たち
原:SDGsは国連の場で決まった新しい馴染みのないものという印象をもたれがちですが、日本にとっては、実はとても馴染みのあるものと思っています。SDGsのお話をさせていただく時、私はよく「再発見」と「自分事化」というキーワードを紹介しています。SDGsの中身を読んでみると、自分たちでできることがたくさんあります。再発見というところで言うと、日本は世界で最も長寿企業が多い国ですが、その背景には、昔からの「三方良し」という日本の経営理念が大きく影響していると言われています。「従業員良し」、「顧客良し」だけでなく、「世間良し」。これはまさに社会に対する思いやりを持って企業活動を行うことが、その企業の持続的な経営につながっているのです。こうした理念は、広島の地場産業に携わられている人にも共通しているのではないでしょうか。最近では、地球環境や次世代を思いやる「地球良し」、「未来良し」も重要な経営理念になりつつあります。このような観点で、もう一度身近に企業活動や社会行動を考え直す、良いきっかけになればいいなと思っています。
また、教育現場でも、2019年に学習指導要領が改訂されて、義務教育として、全ての学校でSDGsを学ぶことになりました。実は、複数のSDGs意識調査によれば、「SDGsを知っている」、「SDGsに取り組みたい」という意識が一番高いのが若い世代。彼らの想像力・行動力・発信力は世界を変革するうねりにつながります。まずは、学校の授業や夏休みの宿題、文化祭のテーマなど、身近なところから、行動に移していってもらえると嬉しいです。
高瀬:途上国目線というのも意識してもらいたいですね。貧困や飢餓といった問題、途上国支援どうするかという話になったときに、果たして、それを「自分事」として語れるかということ。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、日本の皆さんも御苦労されているとは思いますけど、途上国もそれこそウクライナ問題もあって、食糧難や貧困といった問題を抱えています。そういったことに対する目線を少し意識するチャンスにしてもらえれば。
原:サミットの運営においても、より一層SDGsの考え方を取り入れたものにしていきたいなと思っています。近年のサミット、特にドイツなどそうでしたが、国際メディアセンターや首脳会議場において、様々な環境への配慮がなされています。今回の広島サミットにおいても、県民会議をはじめ参画される企業のみなさんにも、ぜひそういう観点から、一緒に取り組んでいただけると、「平和」とともに「サステナビリティ」も、広島サミットの一つのレガシーにつながるのではないでしょうか。